研究課題/領域番号 |
26410152
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
諏訪 雅頼 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90403097)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 磁気光学効果 / ファラデー回転 / イメージング / 常磁性イオン |
研究実績の概要 |
イメージングは自然科学の全ての分野で重要な技術であり、数多くの手法が考案されている。なかでも蛍光イメージングは、感度や選択性から最も広く利用されている。しかしながら蛍光を消光する常磁性イオンを強調することができない。そこで本研究課題では、磁気光学効果の一種であるファラデー効果と電子スピン共鳴(ESR)を組み合わせたラベルフリーな常磁性化学種イメージング法を構築することを目的とする。平成26年度は、9 GHz帯TE111モード開口穴付マイクロ波空洞共振器の作成とファラデー効果測定の高感度化を行った。平成27年度はこれらに更なる改良を加え、磁気光学効果によるESRの検出を試みた。 光源として410nmおよび488nmの半導体レーザーを用いて、マクロな系でファラデー効果によるESRの検出を行った。ウォラストンプリズムとバランス光検出器を利用することによりファラデー回転の高感度測定が可能となった。永久磁石を組み合わせた磁気回路により、外部磁場(~0.5 T)を光の進行方向と平行、かつ空洞共振器の開口から浸み出すマイクロ波磁場と垂直になるように印加した。マイクロ波強度を1kHzで変調させることにより、ファラデー回転角の変化を観測した。試料には有機ラジカルである1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)のメタノール溶液を用い、断面が長方形のキャピラリー(内寸0.2 mm x 3 mm)にバランス光検出器の出力をオシロスコープで観測したところ、マイクロ波変調に伴って変化した。しかしながら、その変化は小さく、またDPPHは長時間の光照射により分解してしまうことから、明瞭なESRの観測が出来なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開口付マイクロ波キャビティーと高感度にファラデー回転を検出可能とする光学系はほぼ完成した。また、磁気回路を利用してESR条件に合致する強度の磁場を印加することも可能であり、測定のための個々の要素技術は計画通り完成できた。さらに前述の通り、DPPHのESRはファラデー回転により観測できることが示唆された。しかしながら、ESRによるファラデー回転角変化は小さく、平成27年度に達成している予定であった定量的な議論に至っておらず、当初の計画から遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
以下に、ファラデー効果によるESR観測信号が小さかった原因と改善点を挙げる。 1.キャビティの開口から浸み出すマイクロ波の強度が小さいことである。現在使用しているキャビティの開口穴付近の肉厚は最低で1 mmあり、これを0.5 mm程度に薄くすることで、試料に照射されるマイクロ波磁場強度が上昇すると予想される。この加工は本学リノベーションセンターに依頼する予定である。 2.現在のオシロスコープを利用した検出法では積算のため長時間の光照射が必要であるため、不安定なDPPHが分解し、結果としてESRが明瞭に観測できなかった。この問題を克服するため、マイクロ波強度変調によるファラデー回転角変化のロックイン検出を考えている。この場合、光照射の時間はロックインアンプの時定数に依存するため、数十msで十分高感度な測定が可能と期待できる。 3.観測光の波長も再考する必要がある。ファラデー効果の大きさは観測波長に依存する。短波長で大きなファラデー効果が観測されるので、現在は青色の半導体レーザー(410nm、488nm)を利用したが、DPPHは530nm付近に大きな吸収バンドを持つため、この付近で測定するとESRを高感度で観測できると考えられる。現有の514nmのアルゴンイオンレーザーや532nmのNd:YAGレーザーも利用する予定である。 さらに、イメージングに向けて、走査型ファラデー回転顕微鏡を作成する。0.5umの分解能をもつ自動ステージを利用し、走査システムをPC制御で構築する。試料としては常磁性化学種(DPPH、鉄、マンガン等)を吸着した球状シリカゲル粒子を用いる。この試料については既に基礎検討を行っており、マイクロ秒パルス磁石を利用したファラデー回転顕微鏡により観測可能であると分かっている。
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