研究課題/領域番号 |
26410156
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
肥後 盛秀 鹿児島大学, 学術研究院理工学域工学系, 教授 (10128077)
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研究分担者 |
満塩 勝 鹿児島大学, 学術研究院理工学域工学系, 助教 (70372802)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蒸着金薄膜 / 酸素グロー放電 / 酸化金薄膜 / 親水性 / 表面改質 / 高分解能X線光電子分光法(XPS) / 表面プラズモン共鳴(SPR) / 金蒸着ガラス棒SPRセンサー |
研究実績の概要 |
酸素グロー放電により生成した酸化金のO 1sの高分解能X線光電子スペクトル(XPS)には529.9(Ⅰ), 530.8(Ⅱ), 531.9(Ⅲ) eVにピークを持つ酸素成分が存在し,成分Ⅲは空気中での240℃の20分間の加熱で分解したが,成分ⅠとⅡは260℃の3時間の加熱でも安定であった。空気中において,成分Ⅲは3日目には消失し,6日目には成分Ⅱも消失してすべて成分Ⅰになった。1~60分の酸素グロー放電では,成分ⅡとⅢが最初に生成し,その後に成分Ⅰが生成した。XPSスペクトルの角度依存性により,最表面から成分ⅠとⅡの順に存在し,酸化金の成分Ⅲが内部に存在することが明らかになった。 酸化金は水,メタノール,エタノール,アセトン中では安定であったが,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,ギ酸の水溶液中では分解して金に還元された。酸化金は硫酸や酢酸水溶液中では安定であったが,塩酸や臭化水素酸の水溶液,また水酸化ナトリウムやアンモニアの水溶液においては溶解すると考えられる。 波長共鳴型表面プラズモン共鳴(SPR)装置を用いて,表面に酸化金が存在する金薄膜の各種の溶媒や水溶液のSPRスペクトルを測定したところ,アルデヒドではXPSの測定結果よりも低い濃度で酸化金が分解したが,その他はXPSと良く対応する結果が得られた。 光源と検出器に発光ダイオード(LED)とフォトダイオード(PD)を用いる金蒸着ガラス棒SPRセンサー装置において,光源の強度で応答を補正することにより検出限界が約4倍向上し,小数点以下5桁の屈折率の変化を測定できるようになった。また長鎖の親水性ポリエチレングリコール(PEG)のチオールを吸着させた金表面をテフロンで被覆することにより,水溶液中の小さな分子に対する選択性を持たせることができ,清酒やワインのエタノール濃度の直接測定が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素グロー放電により金薄膜表面に生成した酸化金について,高分解能XPSを用いる空気中における加熱と時間経過による分解と,グロー放電の継続時間による生成に関する検討により,三つの酸素成分の存在が明らかになり,その帰属を行った。また各種の溶媒や水溶液に浸漬後の酸化金薄膜のXPSとSPRによる測定により,酸化金の安定性と分解,また反応性に関する知見も得ることができた。これらの研究成果を平成27年7月24~25日の第33回九州分析化学若手の会夏季セミナー,9月9~11日の日本分析化学会第64年会,9月12日の第66回コロイドおよび界面化学討論会,平成28年2月12日の鹿児島大学学長裁量経費プロジェクト「鹿児島の金資源2015」講演会「金ナノテクノロジー・ルネサンス」において発表した。 金蒸着ガラス棒SPRセンサー装置の高性能化に関する成果については,日本分析化学会第64年会,第66回コロイドおよび界面化学討論会,鹿児島大学学長裁量経費プロジェクト「鹿児島の金資源2015」講演会「金ナノテクノロジー・ルネサンス」において発表し,分析化学に出版した。PEGチオールとテフロンの被覆による選択性の付与については,上記の他に,平成27年5月23~24日の第75回分析化学討論会と平成28年2月3~5日の第37回工業技術見本市テクニカルショウヨコハマ2016において発表し,Progress in Organic Coatingsに出版した。
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今後の研究の推進方策 |
酸素グロー放電により金薄膜表面に生成した酸化金のO 1sのXPSスペクトルの解析において,三つの酸素成分の存在が明らかになった。これらの成分の帰属と存在状態を明確にするために,高分解能XPSスペクトルの角度依存性を中心とした測定により,これらの酸素成分の深さ分布とその生成機構について検討する。 酸化金は加熱や空気中での時間経過により分解して金に還元されるが,酸化金の利用と応用研究の立場から,その保存に関する検討を行う。空気中に存在する還元性物質を除去することで酸化金の保存が可能になると期待されるため,真空度を変化させて酸化金の保存を行い,その時間経過をXPSを用いて観察することにより,保存できる条件を明らかにする。また窒素やアルゴンなどの不活性ガス中に保存することによる保存も試みる。熱や光による分解についても検討する。SPRを用いても同様の研究を行い,両分光法による研究結果の比較検討を行う。 金蒸着ガラス棒SPRセンサーについても,表面に酸化金が存在する際の応答性について研究を行う。小型で持ち運びに便利な金蒸着ガラス棒SPRセンサー測定装置も開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
真空蒸着装置や各種測定装置などの本研究の中心となる装置の消耗品を計上していたが、本年度はそれらの消耗が全く起こらず、これらを購入することがなかったため、その分が次年度使用額として残った。次年度の物品費および旅費に加算し、計画通りに研究を遂行する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
真空蒸着装置の維持管理に必要な各種真空部品と蒸着金薄膜作製のための金を始めとする各種金属材料を購入する。金や酸化金のXPS測定を始めとする各種の機器分析装置の利用料金が必要である。金蒸着ガラス棒SPRセンサーとその計測装置のための各種試薬や化学実験器具また光学部品と電子部品を購入する。 研究成果を第76回分析化学討論会,第53回化学関連支部合同九州大会,第34回九州分析化学若手の会夏季セミナー,日本分析化学会第65年会において発表するための旅費が必要である。また研究成果を学術論文に出版するための経費が必要である。
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