開発したアタッチメント式抗体磁性ビーズプローブを、反応熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法(反応熱分解GC/MS)と組み合わせた新規分析技法を構築した。この新計測技法を利用して、特定の細菌種を選択捕集し、さらに、その細菌中に含まれる脂肪酸成分の高感度な組成分析を行うことを目指した。まず、試料として大腸菌を使用して、反応熱分解に関する諸条件の適正化を行った。その結果、反応試薬として強有機アルカリの一種である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を使用し、その濃度および反応温度をそれぞれ25 wt%および400度に設定した時に、最も高い効率で持って試料の反応熱分解が進行することを見出した。それらの反応条件下で得られた大腸菌試料のガスクロマトグラム上には、炭素数が12から19、また不飽和度が0あるいは1の一連の脂肪酸成分(10成分)が対応するメチルエステルとして明瞭に観測された。次に、この手法を消毒薬(トリクロサン)に耐性をもつ大腸菌に応用したところ、通常菌と耐性菌では、同じ種類の脂肪酸成分が共通して観測されたが、それらの脂肪酸成分の分布は大腸菌における消毒薬耐性の有無によって微妙に変化することが明らかになった。そこで、それらの相対強度データを基にして、コンピュータ支援によるバイオインフォマティックスの手法を活用して統計処理を行った。具体的には、主成分分析法を利用し、10成分の脂肪酸組成データを第1および第2主成分からなる2次元プロットまでデータ情報を集約した。その結果得られたプロット図上では、通常菌と耐性菌ははっきりと識別されており、今回開発した手法によって、消毒薬耐性を備えた大腸菌を迅速かつ簡便に検出することが初めて可能になった。
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