研究課題
酸素貯蔵タンパク質であるミオグロビン(Mb)の機能を調節する分子機構を解明するために、補欠分子族であるヘムの電子構造による電子的影響とヘム近傍のアミノ酸による構造化学的影響に着目し、一連の化学修飾ヘムを組込んだ再構成ミオグロビンとアミノ酸を部位特異的に置換したミオグロビン変異体における機能と構造の相関関係を解析した。本研究課題の最終年度は、Mbのポリペプチド鎖のN末端から29番のロイシンをフェニルアラニンに置換したL29F変異体および、L29Fのアミノ酸置換に加えてヒスチジンHis64をグルタミンまたはロイシンに置換したL29F/H64Q変異体、L29F/H64L変異体を用いて解析を行った。これら変異体の機能測定から、ヘム鉄に結合した酸素(O2)とGln64の水素結合は、His64の場合よりも弱いことが実証された。また、Phe29は、電子的な相互作用を通して、ヘム鉄に結合したO2の配位状態を安定化すること、そして、ヘム鉄の酸化反応を抑えることが示された。さらに、このPhe29とO2の電子的な相互作用の強度は、O2と64番アミノ酸の水素結合に依存する、つまり、O2、64番アミノ酸およびPhe29の間での共同的な電子的相互作用の存在が示唆された。一連の化学修飾ヘムを組み込んでヘム鉄の電子密度を系統的に変化させた試料の機能の測定結果から、ヘム鉄の電子密度を通したMbの機能調節は、L29F、H64QおよびH64Lのアミノ酸置換には依存しないことが明らかとなった。したがって、ヘム電子構造の変化とヘム近傍のアミノ酸置換は、それぞれ独立してMbの機能の調節に関与することが明らかとなった。本研究により、最も基本的なタンパク質の一つであるMbの機能の調節に関わる分子機構の解明に役立つ知見が得られたと共に、Mbの機能を人工酸素運搬体として最適化するための分子設計指針を発見することができた。
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Inorganic Chemistry
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