研究課題/領域番号 |
26410175
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
岡 夏央 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50401229)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アデニロコハク酸 / リン酸 / 酵素反応中間体 / 蛍光プローブ / 抗がん剤 / イノシン / チオリン酸 / 生合成 |
研究実績の概要 |
核酸の生合成経路には、アデニロコハク酸の生合成の様に、カルボニル基がリン酸化によって活性化され、アミノ基などに変換される反応が複数存在する。本研究は、これらの酵素反応中間体であるカルボニル基がリン酸化されたヌクレオチドに着目し、そのリン酸部位を化学修飾したアナログ分子の合成法の開発に取り組んでいる。この様な酵素反応中間体アナログは、酵素に応答して機能発現する蛍光プローブや抗がん剤などの新しい生物活性化合物として働くと期待される。我々は、独自に開発した酸性活性化剤CMMTを用いる改良ホスホロアミダイト法によって、イノシンのカルボニル基がリン酸ジエステル化された化合物の合成に成功している。しかしながら、リン酸ジエステル部位に導入した置換基は単純なアルキル基やアリール基のみであり、より複雑な官能基の導入には至っていなかった。更に、合成したカルボニル基上のリン酸ジエステルの性質も未解明であった。 そこで、Click反応による官能基化に有用なアルキニル基、スピンラベルや蛍光ラベルとして有用なTEMPO、クマリンを含む種々の官能基を導入したホスホロアミダイトを合成し、CMMTを活性化剤とするイノシンのカルボニル基のリン酸化反応を行ったところ、これらの官能基をリン酸部位に有する酵素反応中間体アナログが得られた。加えて、この様なカルボニル基上のリン酸ジエステルの酵素安定性についても評価した。代表的なリン酸ジエステル加水分解酵素であるホスホジエステラーゼIとヌクレアーゼP1でこれらのリン酸ジエステルを処理したところ、数分以内に完全に加水分解されることが分かった。そこで、生体内安定性を高める目的で、カルボニル基のチオリン酸化法の開発を試みた。本法の酸化のステップをEDITHによる硫化に変えて同様の反応を行ったところ、カルボニル基がチオリン酸ジエステル化されたイノシン誘導体の合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画どおり、様々な官能基を導入したホスホロアミダイトを新たに合成し、これらを用いるイノシンのカルボニル基のリン酸化を行うことで、様々な官能基をリン酸部位に有するアデニロコハク酸生合成中間体アナログの合成に成功した。これらの官能基の内、アルキニル基はClick反応を用いることで更なる誘導体へと導くことができる。また、TEMPOやクマリン誘導体は、酵素反応をリアルタイムで追跡するためのスピンラベルや蛍光ラベルとして有用である。加えて、これらのリン酸ジエステルの生体内における安定性を調査するための端緒として、代表的なリン酸ジエステル加水分解酵素に対する安定性も評価することができた。その結果、これらの酵素反応中間体アナログは、生体内で用いるには不安定であることが分かったが、より酵素耐性が高いと期待されるチオリン酸アナログの合成に成功したことから、この問題点は克服できると期待される。この様に、本年度は様々な官能基を導入したアデニロコハク酸生合成中間体アナログの合成法を確立し、その酵素安定性を評価することもできた。加えて、当初の計画にはなかったチオリン酸アナログの合成にも成功した。このチオリン酸化反応の開発過程では、Beaucage試薬などの汎用的な硫化剤では目的物は得られず、3-ethoxy-1,2, 4-dithiazoline-5-one (EDITH) を用いることで初めて目的のチオリン酸体が得られるという知見も得ている。本研究のもう一つの目的化合物であるグアノシン一リン酸の生合成中間体アナログの合成法の開発は未だ途上であるものの、同様の反応によって合成可能であると考えており、平成28年度に取り組む予定である。以上の成果を総合すると、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に、これまでの研究によって、様々な官能基を持つリン酸ジエステル基をカルボニル基上に導入したイノシン誘導体の合成法の開発に成功した。更に、高い酵素安定性が期待されるチオリン酸誘導体の合成にも成功した。そこで、平成28年度は、まず様々な官能基を持つチオリン酸誘導体の合成とその酵素安定性の評価を試みる。次に、アルキニル基に対するClick反応について検討し、これまでに得られた中間体アナログの更なる誘導化が可能かどうか検討する。加えて、TEMPO、クマリン誘導体のスピンラベル、蛍光ラベルとしての性質の評価を行う。基礎的な物理化学的評価の後、アデニロコハク酸合成酵素との反応を行い、酵素応答性分子として機能するかについて評価する。一方、本研究のもう一つの目的化合物であるグアノシン一リン酸生合成中間体の合成検討を進め、合成法を確立すると共に、その酵素安定性などの性質について評価する。アデニロコハク酸生合成中間体と同様に、チオリン酸誘導体の合成と性質の評価も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、グアノシン一リン酸生合成中間体の合成法の確立に予想以上に時間がかかり、中途となったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
アデニロコハク酸、グアノシン一リン酸の生合成中間体アナログの合成に必要な有機合成化学用試薬、消耗品に用いる。
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