研究課題/領域番号 |
26410179
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
小堀 哲生 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (00397605)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | miRNA / エピジェネティクス / ラマン散乱 / SERS |
研究実績の概要 |
1.ウィルスへの感染や様々な種類の疾患の発症に伴い、血液などの検体に含まれる特定のRNAやDNAの濃度が変化することが報告されている。そのため、核酸成分は、様々な疾患の診断に用いることのできる有望なマーカー分子であると考えられている。現在、血液中の核酸を高感度に検出する手法として、表面増強ラマン散乱(SERS)を利用する手法が注目されている。SERSとは、金や銀などのナノ構造体の表面に存在する分子のラマン強度が、局在表面プラズモンの共鳴効果によって著しく増大する現象であり、生体分子一分子からのシグナルを得ることを可能にする手法であると報告されている。しかしながら、核酸検出法にSERSを応用した例について注意深く検証してみると、ほとんどの例においてシグナルとノイズとの比が小さいラマンスペクトルしかえられていない。そこで我々は、生体成分からのラマンシグナルがほとんど観測されない領域であるサイレント領域にラマンシグナルを示す化学結合に着目し、サイレント領域にシグナルをもつラマンタグとSERSとを組み合わせた高感度核酸検出系の開発を目指して研究を行った。 2.エピジェネティクスとは、DNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現制御機構のことであり、分子レベルではDNA中のシトシン5位のメチル化反応と、ヒストンを構成しているリジン残基のアセチル化やメチル化反応が中心反応として知られている。とくにシトシン5位のメチル化反応は、細胞の分化、遺伝子発現の調節に関与していることが明らかとされているとともに、このメチル化異常は、細胞の発がん、精神疾患といった後天性疾患の発症にも密接に関係していることも報告されている。そこで我々は、細胞中で起こるDNAメチル化反応の定量的な解析法の確立とエピジェネティック解析への応用を目指し、高感度メチル化反応追跡法の開発を目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.サイレント領域にシグナルをもつ新規ラマンタグの化学合成を行ったのち、このラマンタグのラマンスペクトルを測定した。その結果、化学合成によりえられたラマンタグは、サイレント領域に特異的なラマンシグナルを与えることが明らかとなった。つぎに、ラマンタグを鎖中に有する核酸プローブが表面上に修飾された金ナノ粒子を作製した。その結果、固定化溶液中のNaCl濃度を反応時間が経過するとともに0.5Mまで上昇させることで、D-probeを効率よく金ナノ粒子表面に固定化できることを明らかとした。次年度以降はラマンタグの導入位置等の検討を行い、感度よくSERSシグナルがえられる検出系の構築を試みる予定である。 2.生体内のDNAメチル化反応は、CpGアイランドを含むDNA二重鎖とS-アデノシルメチオニンを基質としてメチルトランスフェラーゼにより触媒されることにより反応が進行する。そこでまず、サイレント領域にラマンシグナル活性をもつS-アデノシルメチオニンの化学合成について検討した。つぎに、先の基質の合成と並行して、表面増強ラマン散乱(SERS)測定に応用することの可能なラマンシグナル測定用のチップの開発に取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、研究代表者と3名の大学院生、連携研究者により執り行われる予定である。 研究内容は、①重水素化化合物を用いたSERS測定系の構築、②生体試料中で起こる酵素反応の可視化および定量化、③生体分子高感度検出技術の開発の3本の柱から構成されている。 「計画①重水素化化合物を用いたSERS測定系の構築」では、重水素化化合物の作成法、重水素化化合物のラマン測定法について検討を行い、研究のコンセプトを実証する。 「計画②生体試料中で起こる酵素反応の可視化および定量化」では、細胞中で起こるDNAメチル化反応を重水素化化合物を用いて可視化するとともに、反応の定量化法を確立する。 「計画③生体分子高感度検出技術の開発」では、血液中や、尿中の核酸成分を高感度に検出できるサンドイッチアッセイ系の構築を行う。
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