研究課題
人類の生存を脅かす様々な疾患に対処するために、多くの人が受信することのできる正確、簡便、高感度、かつ非侵襲的な疾患診断法の開発が求められている。現在、疾患診断法として最も汎用されているイムノアッセイ法は、非侵襲的で操作が簡便である。しかしながら診断用バイオマーカーの探索に時間がかかるという問題がある。一方、ガン、エイズ、インフルエンザ、成人病などの広範囲の疾患の発症にともなって血液、喀痰、尿などの検体に含まれる特定のRNAの濃度が変化することが近年明らかとなってきている。そのため、検体中の核酸成分を簡便に測定する技術が確立されれば核酸成分をバイオマーカーとして利用する疾患診断法が実現可能になると考えられる。これまでに我々は、シグナル増幅型のラマン測定法に関した研究を行っている。一般にラマン測定により得られるシグナルは、蛍光測定から得られるシグナルの10-6倍程度しかなく、ラマン測定法は非常に感度の悪い測定法であることが知られている。しかしながら、近年のラマン測定法において、金属ナノ粒子や金基板を利用することでラマンシグナルを107~108倍程度に増強することの可能な表面増強ラマン散乱(SERS)測定法が報告されたことで、一分子の生体分子からラマンシグナルが観測可能であることが見出されている。さらに、生体成分のラマンスペクトルにおいてシグナルの現れない領域(サイレント領域)があることが報告されている。そこで我々は、本プロジェクトにおいてサイレント領域にシグナルをもつラマンタグとSERSとを組み合わせた高感度核酸検出系の開発および高感度メチル化反応追跡法の開発を目指して研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
1.サイレント領域にシグナルをもつ新規ラマンタグの調整と機能評価サイレント領域にシグナルを示す部位をもつシスタミン誘導体を化学合成した後、TCEPを用いてジスルフィド結合を還元し、チオール誘導体を得た。そのチオール誘導体をSERS基質である金ナノロッドに修飾した後に、標的核酸と部分相補的な配列を金ナノロッドに修飾することで、ラマンタグと核酸が修飾された金ナノロッドを作製した。以降この金ナノロッドをラマンタグとする。合成したラマンタグと標的核酸、さらに標的核酸と部分相補的な配列を有するオリゴ核酸を修飾したアガロースビーズを用いてサンドイッチアッセイを行った。その結果、標的核酸が存在するサンプル中ではラマンタグ由来のシグナルがサイレント領域に観測されたが、標的核酸の存在しないサンプルではシグナルは観測されなかった。また、検出感度は1pmol以下であった。以上より、我々の作製したラマンタグは、標的核酸の検出に非常に有効であることが明らかとなった。2.生体内のDNAメチル化反応は、CpGアイランドを含むDNA二重鎖とS-アデノシルメチオニンを基質としてメチルトランスフェラーゼにより触媒されることにより反応が進行する。そこでまず、サイレント領域にラマンシグナル活性をもつS-アデノシルメチオニンの化学合成と重水素化された5-メチルデオキシシチジンの化学合成について検討した。つぎに、先の基質の合成と並行して、表面増強ラマン散乱(SERS)測定に応用することの可能なラマンシグナル測定用のチップの開発に取り組んだ。
本研究は、研究代表者と2名の大学院生、連携研究者により執り行われる予定である。研究内容は、①生体試料中で起こる酵素反応の定量化、②生体分子高感度検出技術の開発の3本の柱から構成されている。「計画①生体試料中で起こる酵素反応の可視化および定量化」では、細胞中で起こるDNAメチル化反応を重水素化化合物を用いて可視化するとともに、反応の定量化法を確立する。「計画②生体分子高感度検出技術の開発」では、血液中や、尿中の核酸成分を高感度に検出できるサンドイッチアッセイ系の構築を行う。
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