研究課題/領域番号 |
26410183
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
坂口 和彦 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80264795)
|
研究分担者 |
勝村 成雄 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 客員教授 (70047364)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | フコキサンチン / スフェロイデノン / 超分子複合体 / パラセントロン / 両官能性C5ジエンユニット / クロスカップリング反応 / 海洋光合成初期過程 / 超効率的エネルギー伝達 |
研究実績の概要 |
藻類由来の多官能性カロテノイドであるフコキサンチンは、海洋光合成初期過程において、クロロフィルおよびタンパク質と共に超分子複合体を形成し、吸収した光エネルギーを超効率的に(80%以上)クロロフィルへ伝達する。本研究の目的は、この超効率的エネルギー伝達機構の解明である。これまでの研究により、新規なICT(分子内電荷移動)エネルギー準位の存在を実証し、フコキサンチンが持つアレンとカルボニル基が共役した特徴的なポリエン構造がICT特性の発現に関与することを明らかにし、ICT準位が介在する超効率的なエネルギー伝達機構を提唱した。 紅色光合成細菌由来のカロテノイドであるスフェロイデノンは、鎖状のポリエン構造を持ち、超分子複合体の再構成技術が確立されている。本研究では、ICT特性を持ち、超分子複合体の再構成が期待できるカロテノイド類縁体として、パラセントロンをデザインした。パラセントロンは、天然物アポカロテノイドのひとつであり、スフェロイデノンの鎖状構造とフコキサンチンのアレンとカルボニル基が共役したポリエン構造を合わせ持つ化合物である。パラセントロンの効率的な合成法の開発と合成を達成し、この分子を用いた超分子複合体の再構成と機能解析により、海洋光合成の超効率的なエネルギー伝達機構の解明を目指す。 平成26年度は、パラセントロンのポリエン部位を立体選択的に構築するための合成ブロックの開発に取り組んだ。その結果、ホウ素とアルキルスズまたはヨウ素を持つ新規な両官能性C5ジエンユニットの開発に成功した。さらに、パラセントロンの合成に必要な5つのセグメントが合成できた。 平成27年度は、パラセントロンの全合成に取り組んだ。その結果、アレン構築条件下でのホウ素官能基の共存性が問題となったが、ホウ素官能基を段階的に導入する迂回ルートを採用することで、パラセントロンの立体選択的合成を達成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々のカロテノイドに共通する共役ポリエンを立体選択的に構築するための合成ブロックとして、新規な両官能性C5ジエンユニットが開発できた。これを用いて、標的化合物であるパラセントロンの合成に成功した。これにより、パラセントロンの分光学的測定が可能となった。しかしながら、本合成においては、アレン構築段階での官能基共存性が課題として残った。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の課題を解決し、パラセントロンの効率的な合成法を確立する。アレン構築の方法、および、クロスカップリング反応との順序を検討することで問題を解決する。 開発できた合成法を活用して、ポリエン鎖長を変化、および、カルボニル基を化学修飾することでICT特性を変化させたパラセントロン類縁体を合成する。 合成できたパラセントロンとその類縁体の分光学的解析により、これら化合物のICT特性を調べ、フコキサンチンとの比較により、化学構造とICTエネルギー準位との関係を明らかにする。 パラセントロンを組み込んだ「光捕集アンテナ超分子複合体」の再構成を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究を推進するため、博士研究員を4ヶ月間雇用し、その費用に直接経費の一部を充当した。当初、もう数ヶ月の雇用を予定していたが、就職が決定したため雇用期間が短くなり、基金の繰越が生じることとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
目的のカロテノイド類縁体の合成、および、鍵となる合成ブロックの調製には、種々のクロスカップリング反応に加え、当初想定していなかったオレフィンメタセシス反応など、多種多様な金属触媒およびリガンドが必須となる。基金として繰り越した分は、比較的高価なこれら試薬の購入に充当する計画である。また、研究を担当した大学院生の学会参加のための交通費、宿泊費の補助にも充当したい。
|