研究課題/領域番号 |
26410185
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
加藤 太一郎 鹿児島大学, 理工学研究科, 助教 (60423901)
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研究分担者 |
丹羽 一樹 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (30443211)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / ホタル / 生物発光 / 生合成経路 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、ホタルD-ルシフェリンの生合成経路を解明すると共に、生合成経路を利用したキラルフリー発光システムの構築を目的とした研究を行う。ホタル体内では、発光基質D-ルシフェリンがその鏡像異性体であるL-ルシフェリンの立体反転によって調製されるという仮説のもと、本プロセスに関与する遺伝子群をトランスクリプトーム解析によって特定することを試みると共に、その遺伝子群を利用してD-, L-ルシフェリンのいずれからでも発光するキラルフリーシステムを構築し、細胞を用いたin vivoイメージングへと応用することを目指す。 本年度は、ホタルD-ルシフェリンの生合成経路に関わる酵素遺伝子の特定を目指した検討を行った。申請者らは既に、モデル反応として細菌由来エピメラーゼ、チオエステラーゼ(加水分解酵素)と、ホタルルシフェラーゼ(上記経路中のチオエステル化酵素に対応)をin vitroにて組み合わせたデラセミ化反応系を作成し、L-からD-体への立体反転を伴った発光反応が予想通り進行することを確かめており、本経路がホタル体内でも作動している可能性は極めて高いと確信していた。そこでまず、ゲンジおよびヘイケボタル成虫に対するトランスクリプトーム解析(遺伝子発現解析)を行うことによって、上記仮説を裏付けるような酵素遺伝子が発現しているか確認した。本解析はゲノム支援(文部科学省科学研究費新学術領域研究「生命科学系3分野支援活動」)に採択されたため委託した。現在解析中であるが、予想通りチオエステラーゼ遺伝子の存在を確認することができた。また、細菌由来チオエステラーゼを用いたモデル反応系の最適化も行うと共に、ルシフェリンアナログに対する検討も行い、デラセミ化システムの有用性を確認することもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホタルは非常に有名な発光生物であるが、その基質、D-ルシフェリンの生合成経路は謎に包まれている。今回申請者らは、本発光基質が、ホタル体内にてその鏡像異性体であるL-ルシフェリンから立体反転を伴ったデラセミ化反応によって合成されているという仮説を立てている。つまり、まずチオエステル化酵素によってL-ルシフェリンとCoASHからチオエステル体を生成する。次に、本チオエステル体に対してエピメリ化酵素が作用、立体が反転し、最後に加水分解酵素によってD-ルシフェリンが得られるという経路である。申請時にはすでに最近由来のチオエステラーゼを利用したモデル反応系を構築し、反応の進行は確かめていたが、実際にホタル体内にチオエステラーゼが存在するかは不明であった。本年度、成虫を用いたトランスクリプトーム解析によって、チオエステラーゼがホタル体内に存在しうることを確認できたことは、申請者が提唱するデラセミ化経路がホタル体内で実際に存在している可能性を強く示唆しているといえる。よって本年度の研究は、当初の予定通り順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はin vitroアッセイでのキラルフリー発光システムの作動確認を行う。 初年度の検討で得られたトランスクリプトーム解析の結果から、デラセミ化立体反転プロセスに関与する候補遺伝子群を予想し、これらの遺伝子をクローニングする。次に得られた酵素を組み合わせることによって、in vitroにてL-ルシフェリンからの発光系が構築可能であることを確かめる。複数の酵素遺伝子が候補として挙がってくる可能性があるが、最適な発光システムを構築するための組み合わせ、あるいは酵素量比を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度にサーモフィッシャーMultiskan GOアドバンス(1,300千円)の購入を計画していたが、申請代表者の所属機関の異動と、また異動先の研究室に同等の物品が既に存在したため、購入を行わなかった。また、トランスクリプトーム解析は当初Macrogen Japanに委託する予定であったが、ゲノム支援(文部科学省科学研究費新学術領域研究「生命科学系3分野支援活動」)に採択されたため費用負担なしにて解析していただけた。これらの理由から、当初予定の支出額より少額にて研究を推進することが可能となった。一方、前任地の兵庫県立大学の学生(共同研究者)との打ち合わせや、学会参加のための旅費が計画より必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記により来年度に繰り越す予算は、物品購入や、共同研究者の学生との打ち合わせ旅費や学会参加旅費として利用したいと考えている。
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