研究実績の概要 |
本研究では、ホタルD-ルシフェリンの生合成経路を解明すると共に、生合成経路を利用したキラルフリー発光システムの構築を目的とした研究を行った。ホタル体内では、発光基質D-ルシフェリンがその鏡像異性体であるL-ルシフェリンの立体反転によって調製されるという仮説のもと、本プロセスに関与する遺伝子群をトランスクリプトーム解析によって特定することを試みると共に、その遺伝子群を利用してD-, L-ルシフェリンのいずれからでも発光するキラルフリーシステムを構築し、細胞を用いたin vivoイメージングへと応用することを目指す。 申請者らは、モデル反応として細菌由来チオエステラーゼ(加水分解酵素)と、ホタルルシフェラーゼ(上記経路中のチオエステル化酵素に対応)をin vitroにて組み合わせたデラセミ化反応系を作成し、L-からD-体への立体反転を伴った発光反応が進行することを確かめた。またゲンジおよびヘイケボタル成虫に対するトランスクリプトーム解析を行った(本解析は文部科学省科学研究費新学術領域研究ゲノム支援に採択されたため委託した)。 次に、得られた次世代シーケンスデータをアセンブルし、ホタル発光器内で発現しているタンパク質を予想した結果、目的と合致すると考えられる複数のチオエステラーゼ遺伝子の存在を確認することができた。これらのうち4種類を選択しcDNAを作成、クローニングし、大腸菌にてタンパク質発現を試みた。その結果、タンパク質の発現は確認できたもののすべて不溶性であった。タグの選定、発現大腸菌の変更、グアニジンによる巻き戻し等、様々な改善策を試みたが、本科研費研究終了時までに候補タンパク質を可溶性タンパク質として得ることはできなかった。ただし、本研究の過程で様々な生物種由来のチオエステラーゼについて検討を行い、それらの中には興味深い特性を示すものを見つけることができた。
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