研究課題/領域番号 |
26410186
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
小俣 義明 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (20268840)
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研究分担者 |
梶原 康宏 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (50460283)
川嶋 剛 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (60460284)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポルフィリン生合成 / ポルフィリン症 / ウロポルフィリノーゲンIII合成酵素 / ハイドロキシメチルビラン合成酵素 / ヘムタンパク質 |
研究実績の概要 |
ウロポルフィリノーゲンIII合成酵素(UROS)によるポルフィリンの環化反応機構を構造生物学的に解明するため、基質であるヒドロキシメチルビラン(HMB)と共通の構造部位を持ち、UROSによって取り込まれるが、環化反応はできないよう化学的に修飾されたUROS阻害作用を有するHMB誘導体の合成を進めている。 当初に計画していた、ポルホビリノーゲン(PBG)を原料とし、HMB合成酵素(HMBS)を用いてHMBを合成した後、反応に必須なヒドロキシ基を他の官能基に変換させる半化学合成によって得る方法では、誘導体を単離できないことが分かった。平成27年度は、全く異なる原料から精密有機化学合成によってHMB誘導体を得る、第二の方法に切り替えた。本法では原料となる2種類のピロール誘導体をそれぞれ6~8工程かけて合成し、両者をカップリングした後、さらに7~9工程かけて目的のHMB誘導体を得る。現在2種類のピロール誘導体まで合成したが、大量に得るためにはまだいくつかの反応において収率の改善が必要であり、スケールアップの最適反応条件の検討を重ねている。 一方、HMBSはジピロメタン補因子をもち、4分子のPBGを連結する。PBGの誘導体2-ヨードポルホビリノーゲン(2-I-PBG)を含むHMBSのX線結晶構造解析から、2-I-PBGがHMBSの補因子周辺に結合し、補因子と最初の基質の間での縮合反応を妨げることが示唆された。 アミノ酸残基を変異させたUROSの活性測定からは、Cys73、Tyr168の重要性を既に明らかにしたが、他の変異酵素の活性測定によって、基質のカルボキシル基が相互作用すると考えられる塩基性アミノ酸残基を幾つか同定した。この結果からUROSの基質結合部位と活性部位は2つのドメインに分かれて存在していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的とするHMB誘導体を得る方法を初年度のHMBSを利用した半合成から変更し、より単純な低分子化合物から全化学合成する方法に変更した。化合物を得ることが目的であるために、文献既知の方法に沿う形で合成を進めているが、文献と同じ反応条件では収率が充分でない場合が多くあることが分かり、種々の検討を重ねつつ、現在、原料となる2種類のピロール誘導体(三置換ピロールと四置換ピロール)を得ることができた。今後はこれらを大量合成で供給しながら、両者のカップリング反応を検討する。しかし、高収率に届いていない反応もあり、問題解決を図りながらスケールアップを図る必要があるために、当初の計画よりもやや遅れ、途中までの合成ができたものの目的とする化合物の合成に至っていない。 計画ではHMB誘導体を含むUROSの結晶構造の解析から反応に関わるアミノ酸残基を変異させて反応機構を議論する予定であったが、HMB誘導体の合成が遅れているために変異酵素の作製に結晶構造の情報を利用することができず、既報の生成物を含むUROSの結晶構造から変異するアミノ酸残基を決めている。UROSの生成物は環状化合物であるために鎖状構造の基質HMBとは分子の自由度が全く異なるので、そこから決めたアミノ酸残基の寄与は基質の結合や活性部位の同定には直接参考にならず、当初の計画通りに変異させるアミノ酸残基を選択できていないが、幾つかのアミノ酸変異酵素は得られた。また、ヒト酵素との比較のために好熱菌のポルフィリン合成に関わる酵素のクローニングを行い、酵素の性質を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
目的とするHMB誘導体の合成原料となる2種類のピロール誘導体をそれぞれ小スケールで合成することができたが、まだ供給量が充分ではない。できる限り速やかに化合物の供給を行うことを第一に考え、また経済的な効率も考慮して、HMB誘導体の精密有機化学合成を行っていく。平成28年度前期は、最適な反応条件を検討しつつ、大量合成のフェーズに移行し、三置換ピロール誘導体と四置換ピロール誘導体を必要量合成し、平成28年度後期で両者をカップリング後、さらに7~9工程かけて目的のHMB誘導体を得る予定であるが、そのためには、多くの実験量と時間を要する。合成の途中で問題が発生すればその都度、条件を検討して解決を図る必要が予想される。 HMBSについては、基質分子が2~4個連結した反応中間体に対応する類似化合物を調製し、ES2~ES4型にあたるHMBSと類似化合物の複合体のX線結晶構造解析に取り組み、HMBSに対するPBGの結合メカニズムについて詳細を明らかにしていく。 ヒト酵素の熱安定性と比較するために、好熱菌由来のポルフィリン合成に関わる酵素についてもクローニングを行い、既に一部については精製酵素の活性の温度依存性を調べた。ヒト酵素のアミノ酸配列と構造をこれらと比較し、熱安定性に関わる因子を検討する。 本研究の発端は、鎖状基質と環状生成物がそれぞれ結合した状態でのUROSの構造変化を知ることであったが、基質誘導体が得られていない現状では、既に分かっている生成物が結合したUROSの結晶構造から関与するアミノ酸残基を推定せざるを得ない。その情報から選択したアミノ酸残基を変異させた酵素を作製し、基質誘導体が得られた際に酵素との複合体のX線結晶構造解析を行い、変異酵素の活性についての知見を合わせてUROSの構造変化と反応機構を議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に計画していたHMBSを利用した半合成では目的化合物が得られないことが分かり、平成27年度は合成方法を、より単純な低分子からの全合成に切り換えたために全ての工程において小スケールでのパイロット実験から始めなければならなかった。一連の合成は、概ね文献既知の方法に沿って進めたが、いくつかの工程においては文献通りでは収率が悪く、副反応も起こるなどの新たな知見が得られた。その結果、各段階の収率を上げるために反応条件の検討と最適化をしなければならず、平成27年度は小スケールの合成だけに留まり、目的化合物の合成に供する2種類のピロール誘導体の必要量を合成するまでは行えなかった。平成27年度から始めた変異酵素の作製にあたってはほぼ当初の予定通りに予算を執行することができたが、化合物の合成が遅れことにより、全体として使用額の差異が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在までの達成度がやや遅れていることから、HMB誘導体合成にかかる費用を当初は計画していなかった平成28年度にも使用する。各工程の収率を高めて効率良く合成することで、原料となる2種類のピロール誘導体をそれぞれ大量に供給する。収率を高めても大量に合成するために、使用する溶媒、試薬及びシリカゲルなどの使用量は必然的に増える。補助事業期間の最終年度であることから、続くカップリング反応以降は、小スケールで実験を進め、HMB誘導体の合成を達成する。 当初の計画では目的化合物の合成後に変異酵素の作製を本格的に始める予定であったが、平成27年度に引き続き、その結果を待たずにアミノ酸変異酵素の作製を化合物の合成と並行して行うため、変異を導入したオリゴDNAの合成や遺伝子操作関連試薬、変異を確認するためのシークエンスおよび多種の変異酵素を精製する試薬と器具に使用する。
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