研究課題/領域番号 |
26410187
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 稔 立命館大学, 生命科学部, 教授 (00241258)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天然変性蛋白質 / 圧力効果 / FTIR法 / ラマン分光 / ダイヤモンドアンビルセル / αヘリックス / βヘアピン / 水和 |
研究実績の概要 |
本研究では、標的分子なしに、遊離の天然変性蛋白質だけを用いて、“機能構造”(構造形成時のフォールド構造)を実験的に予測する方法を確立することを目指し、以下3つの課題を設定している:1.代表的な天然変性蛋白質をモデルに用いての圧力誘起αヘリックス形成の実証、2.新規の2次構造解析法としての高圧力ラマン分光測定法の開発、3.β構造に関する予測原理の確立のための予備研究。 今年度は、課題1において、昨年度において合成・精製に成功したαA+αB からなるpKIDを引き続き対象として、高圧力下での2次構造解析実験を進めた。昨年度までのIR測定ではS/N比が低く定量的な2次構造解析が困難だった。今年度はサンプル濃度を高めるとともに、セル内での水蒸気量の軽減化により、顕著なS/N比の改善を行うことができた。これにより、1058 MPaまでの高圧力下におけるFTIR測定において、2次微分解析可能なスペクトルを得ることに成功した。アミドプロトンが完全D化されたアミドIモード領域での2次微分スペクトル解析から、1630 cm-1に観測されたピークをsolvated helix由来のピークとして帰属した。さらに、圧力増加にともない、このピークの吸光度が増加することを観測した。すなわち、圧力増加にともない、ヘリックス構造が誘起されたことが確認できた。 典型的な天然変性蛋白質の一つであるpKIDは、標的蛋白質と複合体を形成するときヘリックス形成をすることが知られている。今回の結果は、高圧力下での構造が天然変性蛋白質の機能構造と同じであることを意味する。今回の成果は、高圧力の利用が天然変性蛋白質の“機能構造”を予測させるポテンシャルを示したといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1は本研究計画の最も基盤的課題であり、中でもpKIDの2次構造に及ぼす圧力効果はその中核課題である。今年度はこれに重点をおいて研究を実施した。昨年度までにpKIDのαA+αB鎖の合成・精製にも成功したが、高圧力下での2次構造測定には至らなかった。本年度は測定条件を再検討することにより、定量的なFTIR測定に成功し、加圧に伴うヘリックス構造の誘起を実験的に実証することに成功した。過年度におこなったS-peptideを用いた実験でも圧力によりヘリック構造誘起されており、いずれも高圧力下での構造は、“機能構造”と一致した。本研究の目的である「天然変性タンパク質におけるヘリックス形成予測に圧力を利用できる」ことが支持された。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、本年度はpKIDの高圧力下での定量的なFTIR測定に成功し、加圧に伴うヘリックス構造の誘起を実験的に実証することに成功した。すなわち、ヘリックスに帰属されるピーク強度が加圧にともない増加することに成功した。その強度依存性をより定量的に解析することにより、コイル-ヘリックス間の体積差ΔVを決定することができる。この値と他のペプチドで観測された値との比較を行う。さらに、pKIDのコイル-ヘリックス間のギブズエネルギーとpΔVとの比較から、コイル-ヘリックスの比率の圧力依存性を決定し、高圧力を利用した構造予測法の有効性を定量的に評価する。これらの成果および過年度の成果を専門誌において公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験は当初本年度で修了する予定であったが、実験データの解析の精緻化が計画より遅れていた。次年度において、未終了のデータ解析を行うとともに研究成果の論文投稿および学会発表を行う。
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