研究課題/領域番号 |
26410193
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
多賀 圭次郎 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30163330)
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研究分担者 |
山本 靖 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30335088)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 流動抵抗低減 / 省エネルギー / 界面活性剤 / ひも状ミセル / ジェミニ(二鎖)型 / 親水基拡張型 / 電気伝導度法 / 流体粘弾性法 |
研究実績の概要 |
【混合物のCMC決定とミセル形成-抵抗低減効果の相関評価】 一連のカチオン性二鎖型界面活性剤化合物群(主鎖炭素数n・スペーサー炭素数mの組み合わせが(16・3)、(18・4)、(20・5)、(22・6))について、サリチル酸ナトリウム(SalNa)を等電荷比で添加し、混合物を調整した。これら混合物群の水溶液について、電気伝導度法により、クラフトポイント(Kp)および臨界ミセル濃度(critical micelle concentra-tion: CMC)を調べた。単体に比べ、Kpは約10℃低下、CMCも約1/4に低下した。これら混合物水溶液について、渦抑制度およびはね戻り測定を行ない(目視観察)、すべての混合物において、単体に比べておよそ1/6の濃度で、渦抑制とはね戻りが発生した。SalNaを混合することで、ミセル形成時に、二鎖型界面活性剤の親水基間にSal-が入り込み、より低温度かつ低濃度で、ひも状ミセルを形成しやすくなったものと考えられる。 【新規界面活性剤の合成と水溶液物性】 抵抗低減効果剤のための界面活性剤として、今年度は一鎖型界面活性剤の親水基に着目し、性質の異なる2種類の界面活性剤を新規に合成することとした。1つ目はカチオン性界面活性剤で、親水基をN、これに結合する官能基をメチル基・エチル基にしたもの(-N+(CH3)2(CH2CH3)、-N+(CH3)(CH2CH3)2、-N+(CH2CH3)3)(ただし対イオンBr-)、もう1つは両性界面活性剤で、親水基がアミンオキシド基のもの(-N+(CH3)2O--)である(どちらも主鎖炭素数n=16)。合成物について、1H-NMR・IR測定を行ない、カチオン性のものでは親水基のメチル基・エチル基に特徴的な1H-NMRおよびIRのピークを、また両性のものでは親水基NOに特徴的なIRピークを検出し、それぞれの化合物が合成できたことを確認した。これら新規化合物群を、抵抗低減効果発現のための調査対象物質とした。なお、水溶液物性は現在も進行中であり、詳細は次年度に報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一連のカチオン性二鎖型界面活性剤化合物とSalNaとの混合物の水溶液について、電気伝導度法により水溶液物性の測定を行なった結果、単体に比べてKpとCMCの低下を実現することに成功した。スペーサー導入に伴う2親水基の固定化による電荷反発の抑制に加えて、Sal-の親水基間への侵入による電荷反発の更なる抑制そして親水基の強い引きつけが、KpとCMCの低下につながったものと考えられる。また、これら混合物水溶液について、渦抑制度およびはね戻りの目視観察を行なった結果、単体に比べて低い濃度で両物性の発現を実現することに成功した。Sal-の添加が低濃度でのひも状ミセル形成を促進させたと言うことができ、目標の一つでもある「環境に低負荷な新規流動抵抗低減剤」実現への道筋を示すことができたと考えている。 界面活性剤の親水基間反発の抑制効果から着想し、親水基の体積(大きさ)で親水基の電荷の強さを制御する新規なカチオン性界面活性剤、そしてプラス・マイナスの両電荷を有することで親水基間電荷反発の抑制に効果のある両性界面活性剤を、今年度、新規に合成した。カチオン性については、出発物質の各アミンN(CH3)2(CH2CH3)、N(CH3)(CH2CH3)2、N(CH2CH3)3)の構造特性から、主鎖となるブロモアルカン(CH3-(CH2n-1)-Br)の求核能の低下が懸念されたが、得られた化合物の収率は70%以上であり、効率良く化合物が合成できた。また、両性についても、親水基のカチオン化→中性化→オキシド化という合成経路そのものの複雑さという問題があったが、得られた化合物の収率は数10%以上であり、こちらもおおむね良好に化合物が合成できた。 以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新規合成界面活性剤について、KpとCMC測定を行ない、適用可能な温度・濃度の調査を行なう。カチオン性については、二鎖型界面活性剤に比べ、疎水度が1/2であることから、より低温度でミセルを形成する可能性が高い。また、電荷の強度が構造的かつ空間的に抑制されることから、より低濃度でミセルを形成することが期待される。両性についても、水への溶解度、親水基間電荷反発の抑制が期待され、より低温度かつ低濃度でミセルを形成することが期待される。至適温度・濃度を確立後、渦抑制・はね戻り測定を行ない、抵抗低減効果の有無の調査、添加剤効果を調査する。結果から、ひも状ミセル形成と抵抗低減効果との相関について、親水基の構造的観点から追究する。両性については、表面張力装置の至適条件が既に得られており、この装置を用いて測定を行なう。 親水基間電荷反発の抑制効果をさらに促進させるため、カチオン性界面活性剤の親水基にヒドロキシ基(-OH)を導入した、新規界面活性剤の合成を試みる。-OH基に存在する2組の孤立電子対がカチオン化度を弱め、電荷反発をより強く抑制することが期待される。合成後、基礎物性調査、そして渦抑制・はね戻り測定を行ない、抵抗低減効果との相関を追究する。 低温域での抵抗低減効果発現を目指して、溶媒を水からエチレングリコール(EG)水溶液へと展開する。EG水溶液は、自身の固化温度を低下、また、その親水性度も低減させる能力がある。水では不溶・ミセル非形成であった界面活性剤が、EG水溶液では溶解・ミセル形成を実現する可能性がある。新規合成界面活性剤をEG水溶液に適用し、その基礎物性を調査、そして渦抑制・はね戻り測定を行ない、抵抗低減効果との相関を追究する。 実験結果を踏まえ、ひも状ミセルの形成状態と抵抗低減効果発現との相関を分子レベルの観点から評価するとともに、様々な温度で最適な環境低負荷型抵抗低減剤の開発指針を提案する。
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