研究課題/領域番号 |
26410197
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
三上 一行 東海大学, 理学部, 准教授 (80433902)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水処理 / 触媒 / 還元 / パラジウム / 硝酸イオン |
研究実績の概要 |
高速で高窒素選択的に硝酸イオン排水を処理する高機能触媒の開発および反応条件の確立に関して今年度は主に以下の事柄が明らかとなった。 (1)種々の金属を酸化チタンに担持した触媒を調製し、ギ酸を還元剤とした硝酸イオン還元に対する触媒性能を評価した。その結果、PdとInを組みあわせた場合に、硝酸イオンの分解速度が大きく、かつ少なくしたいアンモニウムイオン生成を低く抑えて処理できることが明らかとなった。この組み合わせの場合、比較的少量の担持量であっても効率よく複合サイトが形成され、担持量が少なくても高い活性が得られることがわかった。また、担持量や触媒調製条件の変化に伴う活性や生成物の選択性の変化は小さく、安定した触媒性能が得られることが明らかとなった。 (2)これまで詳細な検討が行われていなかった気相中生成物の定量を、PdとInを担持した触媒を用いて行った。気相中の反応生成物として、窒素と亜酸化窒素が検出され、その比は反応条件や触媒組成によって大きく変化することがわかった。温室効果が大きく生成を低く抑えたい亜酸化窒素の選択率は高温条件およびPd含有量の多い触媒を用いる条件で低くなることが明らかとなった。また、水素の定量から、用いたギ酸が効率よく硝酸イオン還元反応により消費されているか検証したところ、In含有率の高い条件で水素の検出量が少なくギ酸が硝酸イオン還元反応に効率よく用いられていることがわかった。 (3) 共存する成分が、硝酸イオン還元の分解速度や生成物の選択率に与える影響を調べた。陰イオン種として塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオンを共存させて反応を行ったところ、塩化物イオン、リン酸イオン共存下では比較的低濃度で共存した場合でも、硝酸イオン分解速度の低下が見られ、これらの成分の共存が少ない状況で適用する必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に示した、高速で高窒素選択的に硝酸イオン排水を処理する高機能触媒の開発や探索および反応条件の確立に関する検討は概ね予定どおり実施し、多くの新たな知見を得ることができた。その一部は学会ですでに発表し、また今後も発表する予定である。学術的に重要な結果がこれまでに多く得られており、この一部については学術論文への投稿の準備を進めている。 これまでギ酸を還元剤にした硝酸イオン還元に用いる触媒として報告されていたのはPd-CuやPd-Snなどわずかであったが、今回の比較で成分種が活性や選択性に与える影響が明らかとなり、Pd-Inが特に優れていることを見出すことができた。また、成分組成や前処理条件の最適化を行うことにより、処理に有効な触媒調製条件を明らかにすることができた。また、気相中成分の選択率や還元剤の利用効率が触媒組成によって大きく変化することが見いだされ、窒素生成が多く還元剤を効率よく利用できる組成についての知見が得られた。 pHや温度を変えて反応を行い、高い効率で処理ができ、かつアンモニウムイオンや亜酸化窒素のような副生成物の発生を低く抑えて窒素を多く得るのに適した条件を見出すことができた。また、共存成分が処理効率や生成物の選択率に与える影響が明らかになったことで、実際に適用できる排水種や処理時の留意点についての重要な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 活性種や成分組成の変化に伴う活性や選択率の変化の要因が、どのような物性の違いによるものなのかを明確にするために、触媒の物性評価を進めていく。具体的には粒径や分布状態、還元状態など活性種の存在状態と活性・選択率の関連を調べるため、CO吸着測定やTEM観察、XRD、XPS、IR測定等を行っていく。 (2) 活性および窒素選択性のさらなる向上を目的として、硝酸イオンを強く吸着する特性のある担体を適用した触媒を調製し、触媒性能を評価していく。 (3) 実用化に向けた検討として、これまでの粉体状の担体から成型体の担体への変更を試みる。多孔質担体を調製する条件について検討を行った後、得られた多孔質担体に活性成分を担持する条件を確立していく。また、その成型体を用いた反応装置の改良を行っていく。 (4) 26年度に行った反応条件を変えて行った反応結果から速度論的な解析を行っていく。また,気相中成分,液相中成分の詳細な定量や,中間体と推測される物質を出発物質とした反応の実施等により、反応機構の解明を進めていく。 (5) 反応溶液中に存在する、金属イオン・有機物等の共存物質が、触媒活性、選択性に与える影響を調査し、排水処理適用時の課題を明らかにする。強い阻害成分がある場合には、その対処法を考案する。また、様々な条件下で触媒成分の溶解の有無を確認するなどして、触媒の安定性・寿命についての検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年次使用額の約10万円は、学会が近隣地で開催されたために出張旅費が抑えられたこと、購入を予定していた物品のうち購入せずに調達できたものがあったこと等により発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品として、触媒調製関連(活性金属、担体、還元剤等)や生成物の定量関連(還元カラム、発色試薬、分析カラム、緩衝液等)の試薬、触媒の前処理や反応・分析操作で用いるガラス器具、各種分析装置関連器具(ジョイント,シリンジ,フィルター、光源等)の購入を予定している。 分析装置や反応装置の整備・修理費用としての使用を予定している。また、研究成果公表のための学会参加時の旅費、および論文の印刷費としての使用を予定している。
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