研究課題/領域番号 |
26410214
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渡邊 宏臣 九州大学, 先導物質化学研究所, 特任准教授 (30373385)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 漆 / コーティング膜 / ハイブリッド / ウルシオール / ハロイサイト / 表面修飾 / 機械的特性 |
研究実績の概要 |
本研究は、天然物である漆とナノ材料とを複合化することにより、漆膜の高機能性コーティング材料としての展開を図ることを目的としている。初年度は合成イモゴライトとのハイブリッド化を検討したが、イモゴライトの分散性に問題があった。そこで本年度は、同じくアルミノケイ酸塩であるチューブ状ハロイサイトの表面をシランカップリングで表面修飾することによって相溶性を改善させ、これとのハイブリッド化を検討した。シランカップリング剤にはオクタデシルトリエトキシシランを用い、我々が既に報告している手法(Wu et. al., Langmuir, 2013)により表面修飾を行った。表面修飾の確認は、熱重量分析および赤外分光測定で行った。ハイブリッド薄膜は、ウルシオールと表面修飾したハロイサイトをニートで混合し、その後酢酸(II)鉄を加え適宜乳酸エチルで希釈したものを塗布溶液とし、これをスピンコートすることにより得た。このコーティング膜は、ウルシオール単体膜の場合と同様に膜表面が平滑であること、またハロイサイトは薄膜中できちんと分散していることが、原子間力顕微鏡および透過型電子顕微鏡観察よりそれぞれ確認された。しかしながら膜厚がサブミクロン厚の場合は膜表面からのハロイサイトの突出が観察された。これは使用したハロイサイトのチューブ長が膜厚と同程度であったためと考えられる。このことから薄膜化のためには、より短いチューブ状無機材料とのハイブリッド化が必須であると思われる。 また側鎖二重結合を飽和させた水添ウルシオールを新たに合成し、これとのハイブリッド化も行った。その薄膜の物性評価からは、極限引張強度やヤング率などの機械的特性は水添ウルシオールの比率が増加するに従って低下することが明らかとなった。これは側鎖二重結合による架橋反応が、優れたコーティング特性を生み出すのに必要であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標である漆の有機-無機ハイブリッド化について、ハロイサイトの表面修飾によって分散性の大幅な改善は達成できたものの、薄膜化の観点からは他のナノチューブ材料を用いる必要があると思われる。薄膜化は省資源化の観点から必須であり、これに適した表面修飾可能なナノチューブ材料の選定が課題である。また水添漆の研究結果から、ウルシオールの側鎖二重結合が優れた機械的強度を生み出す上で必須であることが明らかとなったが、ウルシオールの基本的な特性を分子構造と結び付けたという点で、充分に評価に価する。
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今後の研究の推進方策 |
サブミクロン厚以下の薄膜化を達成するために、サイズが充分に小さいナノマテリアルとのハイブリッド化を試みる。具体的には、花びら状のハロイサイトなどの合成を行い、そのサイズや形状を電子顕微鏡などで確認の後、表面修飾により相溶性の向上を行い、ハイブリッド化を達成する。さらにはこのコーティング膜のナノステッカー化を行い、基板の種類を選ばない間接的な表面改質手法の確立を行う。ナノステッカーとは、ナノ厚でありながら大面積の薄膜をステッカーのように基板に貼り付ける技術であるが、その極限的な薄さによる強度不足を、ハイブリッド化によって解決できるものと期待される。
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