混合溶媒系におけるゲル界面の構造研究を開始した。p-キシレンとオクタンニトリルはあらゆる比率で混合する。また、それぞれ単独や混合状態でも12-ヒドロキシステアリン酸でゲル化される。これらの1:1混合溶媒のゲルについて、各成分濃度分布を共焦点ラマン顕微鏡によりマッピングした結果、キシレンとニトリルの濃度比はマイカ界面に近づくにつれて距離に比例して増加しているのが観察された。さらに、この過剰分布は界面から300ミクロン以上の距離に及んでいた。完全に混合する液体が、ゲル中で分離しているのが観察されたのは初めてである。 この現象のメカニズム解明を目的に研究を進めた。まず、この現象は単純な混合液体では起こらずゲルネットワークが必要であることを確認した。過剰分布が距離に比例して変化するという結果はエントロピー的には極めて不利である。そこで、固定位置での成分分布の経時変化を追跡したところ、4時間かけて均一分布へと変化することが観察された。さらに、ゲル化速度を遅くすると変化率が減少し、やがて均一分布を与えた。これらは、過剰分布が熱平衡状態でなく、速度論的に安定な状態であることを示している。 続いて、キシレンがマイカ近傍で過剰になる要因について、異種のシラン処理されたガラス基板表面でゲル化させた。マイカおよびフェニルシラン表面上ではキシレンは完全濡れを示し、テフロンおよびオクタデシルシラン表面上では部分濡れを示す。ゲル中のキシレンは前者では過剰分布を有するが、後者では均一分布となった。また、キシレンのモル比を変えたときの接触角と過剰分布の傾きにはよい相関がみられた。よって、溶媒の選択的吸着が過剰の要因であることを示した。 これらの結果から、ゲル界面は数百ミクロンの厚みを持ち、溶媒の緩和に数時間を要することがわかり、ゲルに保持された溶媒はゲル本体によって支えられていることが判明した。
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