研究課題/領域番号 |
26410221
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
比江嶋 祐介 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (10415789)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子材料物性 / ラマン分光 / 蛍光分光 / 一軸延伸 / ポリオレフィン / 結晶化 |
研究実績の概要 |
これまでにその場ラマン分光測定装置およびスペクトル解析システムを構築した。このシステムを一軸延伸下における高密度ポリエチレンに適用し、結晶中の高分子鎖における応力負荷状態や分子配向状態を評価した。その結果、延伸初期の弾性領域においては、結晶中分子鎖への応力負荷もなく配向も進展しないが、降伏領域において、配向が進展し始めるとともに顕著な変化が生じることが分かった。すなわち、分子鎖と平行な方向には引張力が作用するが、分子鎖と垂直な方向には圧縮力が作用した。また、第二降伏点付近で、延伸方向から30-70°程度傾いた方向へ配向した後、ひずみ硬化領域では延伸方向への配向が進展した。これらの現象は、ラメラ晶がラメラ数層程度からなるクラスターユニットに破砕されて再配列するために、クラスター間の体積排除効果により延伸方向への分子鎖の配向が阻害されるためと考えられる。引張試験器に恒温槽を取り付け、熱延伸下における高密度ポリエチレンの微視的構造変化をその場ラマン分光測定により観察した。その結果、降伏領域における異方的な応力負荷状態は、分子鎖間の運動性が向上する50℃以上で消失することが分かった。このことは、冷延伸においては、ラメラクラスターが運動ユニットとして機能しており、変形の際の構造変化に重要な役割を果たしているためと考えられる。 蛍光プローブを高分子試料内にドープした試料を作製し、その場蛍光分光測定により、一軸延伸の際に生じる微視的構造変化の観察を試みた。その結果、蛍光波長や蛍光強度は延伸とともに変化しており、蛍光プローブを用いて微視的な応力や構造変化を捉えられることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定よりもラマン分光装置開発が順調に進み、想定以上に多くの成果が得られ、これまでに査読付き論文2報として報告済みである。これらの成果は学会においても高い評価を得ており、ポスター賞2件、プレゼンテーション賞3件を受賞した。また、蛍光分光測定に関しても、想定以上に興味深いデータが得られている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでは非常に順調に研究が進んでおり、さらに多くの成果が望める状況である。今年度はラマン分光測定においては、ポリプロピレン等の他の高分子材料へ対象を拡大するとともに、試料内における応力や分子配向の空間分布の測定ができるよう装置を改良する予定である。蛍光分光測定に関しては、別のプローブ分子を組み合わせることで、微視的環境の変化を多角的に検討する予定である。
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