昨年度作製したラマン分光測定装置の光学系を改善し、信号強度で1桁以上の向上を実現した。解析方法に関しては、配向分布関数を導出する際に、最大エントロピー原理を用いて高次項を推算することで、確率的に最も確からしい分布関数、すなわち最尤配向分布関数を導出する手法を開発した。さらに、高度に一軸延伸した試料における配向状態が理想的な一軸配向と見なせると仮定することで、任意の結晶構造を有する結晶性高分子材料における配向パラメータを導出する解析方法を確立した。これらの手法をイソタクチックポリプロピレンに適用し、一軸延伸下における分子配向挙動を明らかにした。その結果、ポリエチレンの場合と同様に、降伏領域において延伸方向から傾いた方向に一旦配向し、その後ひずみ硬化領域において徐々に配向が進展することが分かった。また、ポリエチレンの様々なラマンバンドと分子構造との関係について検討を行い、弾性領域において非晶鎖に大きな荷重が印加されていることや、降伏後に斜方晶の結晶格子間隔が増大することを見いだした。このように、複数のラマンバンドを用いることで、微視的構造変化を多角的に観察することが可能となった。以上の成果をもとに、結晶厚、分子量および分子量分布などの異なるポリエチレンのその場ラマン分光測定を行い、これらのパラメータの一軸変形挙動に与える影響を検討した。 蛍光プローブを高分子試料内にドープした試料を作製し、その場蛍光分光測定により、一軸延伸の際に生じる微視的構造変化の観察を試みた。その結果、蛍光波長のシフトが試料に印加された応力と相関があることが示唆された。
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