昨年度までに開発したその場ラマン分光装置と解析方法を用いて、分子量や分子量分布の異なるポリエチレンに適用し、一軸延伸過程における微視的な構造変化を検討した。その結果、弾性領域から降伏領域までは、変形挙動は分子量や分子量分布にほとんど依存しないことが分かった。一方、ひずみ硬化領域以降においては、低い分子量、広い分子量分布の試料ほど高配向であることが分かった。降伏領域においては、球晶が破砕してラメラクラスターユニットが生成するが、このユニットサイズは、分子量の1/2乗に比例する。従って、低分子量の試料において高配向を示す原因は、ユニットが小さく回転しやすいために、延伸方向への配向がスムーズに実現されるためと考えられる。広い分子量分子の試料においては、ラメラ晶構造は分子量分布に依存しないが、ひずみ硬化領域における応力ひずみ曲線の勾配から、非晶鎖のネットワーク構造がより密であると考えられており、非晶構造の違いが配向挙動の違いに影響を与えると考えられる。 その場ラマン分光測定装置に温度制御が可能なホットステージを導入することで、イソタクチックポリプロピレンの溶融および結晶化挙動のラマン分光による観察を行った。その結果、昇温とともに、コンホメーションの乱れによりC-C-Cはさみ振動に帰属する400 cm-1バンドは高波数側に、分子鎖間距離の増大によりCH2変角振動に帰属する1330 cm-1バンドは低波数側にシフトすることが分かった。融解に際しても400および1330cm-1バンドはそれぞれ高波数および低波数側へ大きく変化するが、溶融状態においては、400 cm-1バンドは、1330 cm-1バンドと比較して温度依存性が小さいことが分かった。このことは、融解に際してコンホメーションは十分に乱れており、溶融状態においては、熱膨張による分子鎖間距離の増大がより重要であることを示唆している。
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