平成28年度は、これまでの低分子とは異なり、フレキシブルなアルキル鎖を有するドナー性のポリエーテル(PES)を合成した。このドナー性PESとアクセプター性スルホン化ポリイミド(SPI)を溶液中で混合し成膜することで、これまで報告してきた高分子―低分子間のCT錯体ではなく、高分子-高分子間のCT錯体ブレンド膜の作製を行った。 ブレンド膜は濃い茶色を示し、目視でもCT錯体が膜形成されている事が確認された。比較として主鎖が芳香族からなる剛直なPESをブレンドした場合、PESの剛直性やCT形成を阻害する分子構造のため、錯体を形成しなかった。このことから、PES中に導入されたアルキル鎖は、CT錯体形成を促進する事が明らかとなった。ブレンド膜の可視スペクトルを測定したところ、530nmにDHNとNDIにより形成されるCT吸収が確認され、PES:SPI=1:1(mol)ブレンド膜のCT錯体濃度が最大となったことが確認された。ブレンド膜の機械強度も、1:1のブレンド膜が最も破断応力が大きくなった。プロトン伝導性は、80℃、90%RHで20mS/cmであり、Nafion212のプロトン伝導性の半分以下の値であったが、ガス透過性はNafion212の5.4倍低い値を示した。そこで、SPI:PES=2:1(mol)ブレンド膜をNafion212より5倍薄い10μmで成膜し、機能を評価した。ブレンド膜のOCVは、Nafion 212よりもやや低い程度で、ガスバリア性は十分に維持できた事が明らかとなった。IR損は、Nafion212とほぼ同等で、薄膜化により抵抗を下げ十分にプロトン伝導性を維持できる膜が作製できた。 このように様々なドナー分子を用いてCT錯体膜を作製し、その機能と原理を明らかにしてきた。今後は、これまで得られた分子構造と機能の知見を生かし、さらに広範な分子構造へ応用して行く。
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