研究課題
ナフィオンはプロトン伝導性および耐久性に優れた高分子電解質であり、固体高分子形燃料電池(PEFC)のプロトン交換膜として使用されている。集積化によるPEFCの高出力化、さらには、材料の小型化に向けて、ナフィオンの薄膜化が強く望まれている。薄膜状態にすると、水の収着やプロトン伝導に及ぼす膜表面および基板界面の影響を強く受けることが予想されるが、その詳細は明らかにされていない。本研究では、ナフィオン薄膜に対する水収着挙動およびプロトン伝導特性を評価し、湿度、電極界面、電場などのナフィオン薄膜周囲の“場”の効果が担体の拡散に及ぼす影響を明らかにすることを目指す。今年度は平衡膨潤状態におけるナフィオン薄膜の凝集状態とプロトン伝導度を温度の関数として評価した。まず、水中および水蒸気雰囲気下で温度を制御できる調湿加熱セルを作製した。ナフィオン薄膜は、石英基板上にスピンコート法に基づき石英基板上に調製した。中性子反射率(NR)測定により得られたプロファイルを解析することで、石英界面近傍に10 nmの多層水和構造が存在することを確認した。得られた密度プロファイルに基づき、ナフィオン薄膜をバルク層と界面層の二層に分割し、それぞれの膨潤度 (SR)を算出した。ここで、SRは平衡膨潤時ならびに乾燥時の膜厚の比と定義した。バルク層のSRは温度とともに増加し、333Kより高温ではその傾きが増加した。一方、界面層のSRはバルクのSRよりも低く、かつ、温度に依存せずほぼ一定であった。これは、ナフィオンと石英の相互作用が強いことを示唆している。交流インピーダンス測定により得られたプロトン伝導度は低温域では温度上昇にともない緩やかに増加したが、333 Kより高温では急激に増加した。これは、温度上昇によるSRの変化、あるいは、それに伴う水の凝集状態の変化がプロトン伝導度の増加に関与していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
調湿加熱セルが完成し、様々な環境下における水収着挙動とプロトン伝導の評価が可能となった。それにより、ナフィオン薄膜における凝集状態とプロトン伝導の関係が明らかになりつつある。今後、湿度、温度等の因子を系統的に変化させながらナフィオン薄膜の凝集状態とプロトン伝導を評価することで、当初の目的を達成できると考えられる。
まず、水収着挙動の温度依存性を明らかにし、プロトン伝導度の温度依存性との関係について議論する。水収着挙動およびプロトン伝導度を制御する因子として、ナフィオン側鎖の運動性に着目し、赤外分光法および和周波発生分光法を組合せ、その温度依存性を明らかにする。水蒸気雰囲気下における水収着挙動を湿度および温度の関数として評価し、ナフィオン薄膜周囲の“場”の効果が担体の拡散に及ぼす影響を明らかにする。
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