研究課題/領域番号 |
26410236
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
綿打 敏司 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (30293442)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 結晶成長 / シンチレーター |
研究実績の概要 |
放射線検出器は医療や資源探査などに利用されている。その開発には用途に応じた特性をもつ様々なシンチレータ結晶が必要である。Ce添加Gd2Si2O7結晶もその一つで、シンチレータとして優れた特性を有していることが北大の樋口らにより報告されている。しかし、GPS結晶は分解溶融化合物であるため、従来の量産法での単結晶育成が困難である。物性測定は、小さな結晶片を用いて行われているに過ぎない。そこで、本研究では浮遊帯域溶融法や溶媒移動浮遊帯域法(TSFZ法)を用いてGPSの大型結晶の育成を目指した。 種結晶がない場合のTSFZ育成で通常用いる多結晶棒を種棒とした手法では、溶媒の溶融が困難で安定な溶融帯すら形成できなかった。溶融帯形成には加熱方法に工夫を加える必要があり、これに時間を要した。 安定な溶融帯を形成できるようになった後、空気中とアルゴン雰囲気中の異なる酸素分圧下で育成速度を0.2~7.5 mm/hの範囲で変化させた条件で結晶を育成し、結晶中のクラックや異相の析出状況について調べた。また、育成中の溶融帯を急冷固化することで育成中の結晶育成界面の形状も調べた。 育成結晶はすべて白濁しており、多数のクラックも観察された。しかし、SEM観察の結果、異相の析出には系統的な変化が見られた。空気中で育成した結晶では、育成速度が4.3 mm/hの場合にSiO2が異相として観察されたが、育成速度が2.5 mm/h以下では、クラックのみ観察され、異相は確認されなかった。Ar雰囲気で育成した結晶では、育成速度が0.8 mm/h以上の場合に異相が確認された。その結果、Ar雰囲気よりも空気中の方が異相の析出を抑制しやすいことがわかった。 また、溶融帯の急冷固化体の育成方向に平行な断面から育成中の結晶と溶融帯の界面は凹状で、この形状が育成結晶中のクラックの要因である可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したように研究代表者が経験してきた通常の手法では結晶育成を開始するに当たって不可欠な溶融帯の形成が困難であり、安定した溶融帯を形成するための育成開始条件に大きな工夫を加える必要があった。これの解決に時間を要した点が研究進捗に遅れが生じている理由の一つである。また、これまで条件を変化させて育成した結晶がクラックや異相の析出が原因ですべて白濁していた。そのため、これらの解決に時間を要している。異相の析出については、育成雰囲気や育成速度を調節することで抑制できることがわかったが、クラックについては現時点でその発生を抑制することが困難である。溶融帯の急冷固化体を用いた結晶成長界面形状の観察から凹状界面がクラックの要因の一つと考えその制御今後行う計画である。
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今後の研究の推進方策 |
異相の析出の抑制に成功したことを踏まえ、今後はクラックの抑制と育成結晶の大口径化を目指した研究を行って行く。 クラックの抑制法としては、凹状の成長界面形状を平坦化もしくは凸状にするための条件を調べる計画である。具体的には、結晶育成に用いる原料径を変化させた条件での成長界面形状を調べた後、育成結晶の回転中心軸の延長線上にある赤外線の集光中心を溶融帯表面近傍に移動させて成長界面形状に対する影響を調べる計画である。その結果得られる成長界面の形状と育成結晶のクラックの状況を見ながらさらに育成条件の検討を行う。育成結晶のクラックを抑制し、透明な結晶の育成を実現した後、その大口径化を目指していく計画である。
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