研究課題/領域番号 |
26410237
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
伴 隆幸 岐阜大学, 工学部, 准教授 (70273125)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノシート / 溶液プロセス / 薄膜 / 金属酸化物 |
研究実績の概要 |
金属酸ナノシートは,高い構造異方性に起因する興味深い特性が期待される材料である。我々は,この金属酸ナノシートのボトムアップ合成法を見出している。ここでは,これまでにまだ検討していない種類のナノシートにこの合成法を応用することと,この合成法で得られるナノシートの形態を制御することを検討した。また,これらの検討をとおして,単層ナノシート薄膜作製の可能性に関する知見を得ることも目的とした。 まず,いろいろなナノシートの合成においては,2つのタイプのナノシートを検討した。ひとつはコバルト酸とマンガン酸のナノシートである。これらの金属酸層がもつ負電荷を制御した結果,金属酸層の負電荷密度がある値より小さくなると層剥離によりナノシートが生成することが分かった。これは,これまでに合成した他の金属酸ナノシートについても適用できた。また,もう一つはアルミノリン酸ナノシートである。これまでナノシートを塩基性水溶液中で合成してきた。しかし,そのような条件で基板上に直接ナノシートを析出することにより単層薄膜を作製しようとすると,基板の種類が限られてしまう。そこで,中性条件でのナノシート合成を検討した結果,アルミノリン酸ナノシートが中性付近で合成できた。しかし,このナノシートは,ゲル中で結晶化した層状アルミノリン酸塩の層剥離により生成しており,基板上での析出による単層薄膜の作製への応用が難しいと考えられた。 次に,ナノシートの形態制御であるが,イオン液体を溶媒として合成したチタン酸ナノシートの形態について調べた。その結果,面内サイズが数nmの非常に小さいナノシートが合成できた。水溶媒中での合成も含めて考えると,この方法では面内サイズが数nmから約100 nmのナノシートを合成できると分かった。この方法で合成できる大きなナノシートの基板への塗布を利用したナノシート薄膜作製を今後検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの予定は,我々が見出したナノシート合成法をいろいろな金属酸ナノシートへ応用することや,形態制御により大きなナノシートを作製することであった。また,単層ナノシート薄膜作製も検討し始める予定であった。 まず,いろいろな金属酸ナノシートの合成であるが,コバルト酸とマンガン酸のナノシート合成により,ナノシート生成に必要となる条件を見出すことが出来た。また,2種類の陽イオンを含むナノシートの合成として,当初は層状ペロブスカイトのナノシート合成も検討する予定であったが,アルミノリン酸ナノシートについてのみ検討した。つまり,必要以上に検討するナノシートの種類を増やすのではなく,重要と思われるものについて詳しく検討した。特に,アルミノリン酸塩が中性条件で合成されるという特長を単層ナノシート薄膜作製に活かせるかという観点で検討して重要な知見が得られた。 次に,ナノシートの形態制御についてであるが,イオン液体溶媒中で非常に小さいチタン酸ナノシートが合成されることが新たに分かった。小さいナノシートは光触媒などへの応用すると興味深いので,このような,想定していなかった物性評価についても今後検討する予定である。大きなナノシートの合成については,平成26年に水溶媒中で興味深い結果が既に得られているので,それを薄膜作製に活かしていく予定である。 最後に,単層ナノシート薄膜作製についてであるが,薄膜作製自体にはとりかかることはできなかった。しかし,ナノシートの生成挙動や形態制御について詳細に調べた結果,このナノシート合成法を薄膜作製に応用する場合,どのような手法が適しているかなどの基礎的な知見を得ることが出来た。 以上のように,最終年度の検討課題である単層ナノシート薄膜作製やナノシートの物性評価を行う上で必要となる情報は十分得られており,おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の当初の予定は,単層ナノシート薄膜作製とその物性評価であった。 まず,単層ナノシート薄膜の作製についてであるが,当初は2つの方法により作製を検討することを考えていた。しかし,シランカップリング剤などで化学修飾した基板上にナノシートを直接析出させて,単層ナノシート薄膜を作製する方法では,薄膜作製に適した条件でのナノシート合成が難しいことが分かってきた。そこで,我々の合成法で大きなナノシートを作製する方法を見出し,それを基板上に塗布することにより薄膜とする方法のみを検討する。これまでに,ナノシートを面内方向に優先的に凝集させて,数十ミクロンの多結晶ナノシートを作製する方法を見出しているので,これを薄膜作製に応用する。また,大きなナノシートが分散したゾルの液晶挙動の観察や,それを塗布して得られた薄膜をシード層として,エピタキシャル成長を利用した金属酸化物の配向薄膜のゾルゲル法による作製も検討する。 次に物性評価であるが,当初の予定では,単層ナノシート薄膜の電気物性を評価して電子デバイスへの応用を検討する予定であった。しかし,上で述べた薄膜作製法では電子デバイスに適した薄膜は得られにくいと考えられる。ナノシート薄膜の応用は,上で述べた配向エピタキシャル薄膜作製のためのシード層としての応用にとどめることとする。その代わりに,ナノシートの光触媒特性を検討する。これまでの検討で,我々の金属酸ナノシートの合成法は,面内サイズが小さく,水に非常に高い分散性を示すナノシートを作製するのに適していることが分かってきた。面内サイズが小さいということは,ナノシートの末端を有機配位子などで化学修飾しやすく,それを利用して可視光を光吸収することが可能である。水への分散性が高いことも考慮し,可視光による水の光分解などへ応用すると面白いと考えられるので,そのような光触媒特性の評価を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では,平成27年度に,海外で開催される国際学会で研究成果を発表する予定であった。しかし,国内開催の国際学会とのスケジュールの都合で参加できなかったので,その渡航費が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に参加できなかった国際学会の代わりに,平成28年度に海外(ドイツ・ドレスデン)で開催される国際学会で研究成果を発表することとした。
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