研究課題/領域番号 |
26410238
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
川崎 晋司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40241294)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 電気化学 / 高圧力 |
研究実績の概要 |
申請書の実験計画に記したように単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を精製処理・キャラクタリゼーションしたのち、いくつかの有機分子、元素分子を内包させ電気化学実験を実施した。以下に具体的な物質名と実験結果の概要を箇条書きで示す。 (1)ヨウ素内包ナノチューブ:SWCNTを作用極、対極を白金としヨウ化ナトリウム水溶液中で作用極に正電位を付与することによりヨウ化物イオンを酸化しヨウ素分子をチューブ内に内包させた。内包によりホールドープが起き電気伝導度が向上することなどを明らかにした。 (2)硫黄内包ナノチューブ:硫黄結晶をSWCNTとともにガラス管に真空封かんしたのち、加熱処理して硫黄分子をチューブに内包させた。内包した硫黄分子がチューブ内で安定化することを熱重量分析実験により明らかにした。また、この安定化はチューブ径が小さいほど大きいことも明らかにした。この硫黄内包ナノチューブのリチウムイオン貯蔵能について電気化学実験により調べた。バルク硫黄では多硫化物イオンの溶出が問題となるが、SWCNTに内包させることによりこの溶出を抑制できることがわかった。 (3)アントラキノン、フェナントレンキノン内包ナノチューブ:アントラキノン、フェナントレンキノンともに硫黄分子と同様の気相法によりSWCNTに内包させた。これらの有機分子もリチウムイオン二次電池の電極材料として期待されているが、いずれも電解液への溶出が問題である。しかし、これらの試料についてもSWCNTへの内包により溶出が抑制できることがわかった。とくにフェナントレンキノンでは抑制効果が大きいことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究目的に以下の項目について明らかにすることを目指すと記した。1.ナノチューブ内に取り込んだ硫黄、ヨウ素一次元結晶およびアントラキノンなどの芳香族小分子の酸化還元電位を電気化学測定で決定する。2.酸化還元前後の構造変化をXRDで、電子構造変化をXAFSにより明らかにする。3.ナノチューブに取り込んだ分子・結晶と金属(アルカリ金属など)電極とで反応系を構築し電気化学反応がどのように進行するかを分光学実験を組み合わせて明らかにする。反応生成物の構造評価を行いチューブ内の擬高圧効果の影響について評価する。4.ナノチューブ内の硫黄や芳香族小分子が電池反応する場合、サイクル特性など電池電極性能評価を実施する。 これらの項目のうち、(1)と(4)については先の概要の項で記したようにおおよそのことができており、ほぼ計画通り進行していると判断して良いように思う。しかし、(2)と(3)については現時点で十分な研究成果をあげていない。これまでに岡崎の分子研の放射光を利用したXAFS測定やつくばのPFでの放射光X線回折実験に取り組んでいるが、時間的な制約もあり、予備的な実験にとどまっている。幸い今年度もマシンタイムを得て継続的な実験を行うことができるので、昨年度の実験上の問題点に注意して取り組みたいと考えている。また、(1)、(4)についてもチューブ径やチューブ長、イオン種など実験条件をさらに検討して実験を行い、より深い考察が行えるよう検討したい。これらのことを総合的に判断して、掲げた目標値に対してほぼ当初の予定通りと結論した。
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今後の研究の推進方策 |
単層カーボンナノチューブ内に取り込んだ分子・結晶と外部からの金属イオンの反応(電気化学反応)を網羅的に研究しようというのが申請書に書いた内容である。この計画に沿って今後も研究を進めていく。初年度はすでに記したようにヨウ素、硫黄、有機分子を内包させリチウムイオンとの反応について重点的に研究を実施した。また、実験手段としては主に電気化学的手法による解析を行ってきた。今年度は申請書の計画にも書いたようにさらに内包物質の幅を広げるとともに外部からの反応イオン種についてもリチウムイオン以外のものもテストしていきたい。具体的にはイオンサイズの大きいナトリウムイオンや価数の異なるマグネシウムなどを検討していきたい。また、実験手段についても放射光X線(XRD, XAFS)、顕微ラマン散乱実験など分光的手法も駆使して新たな知見が得られるよう検討する。また、やや実験的には難しくなるがSWCNTのカイラリティ分離にも取り組み、単にチューブ径やチューブ長といった外形的な部分だけでなく、電子状態にまで踏み込んでホスト側の影響について考察してみたい。さらに、本研究課題の最終目標である高圧下での電気化学実験についても予備的な実験が実施できるよう設備面での検討を進めていきたい。具体的には、圧力範囲を設定したうえで、エアーポンプから配管、圧力センサー、ストップバルブなど基本的な部品を購入してファーストランを早い時期に実施できるよう計画していきたい。
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