研究課題
昨年度に引き続き,酸化チタンナノ粒子を液中プラズマ処理によって高効率・高速に還元処理することを検討した。昨年度は,液中プラズマ処理においてガス導入効果によって,酸化チタンの可視光応答化を確かめた。平成27年度の主な改善点は,ガス導入方法であり,これまでのバブリング方式から変更し,対向した電極間に直接ガスを導入できるように,電極構造を二重管としたことである。こうすることで再現よく,また,より効率的に処理することが可能となった。処理後の試料について光触媒活性を評価したところ,市販の可視光応答型光触媒材料に比べても格段に活性が高いことがわかった。この要因を調べるため,電子スピン共鳴法によって,F+センターの定量を行った。F+センターは酸素欠損に電子が1つトラップされた状態であり,未処理の酸化チタンにはほとんど確認されなかったが,液中プラズマ処理することで非常に鋭いESRシグナルを観測した。また,液中プラズマ処理後はO2-ピークも確認され,これは欠陥にトラップされている電子がO2と反応して生成したと考えている。これより,液中プラズマ処理を行うことによって,酸化チタンの酸素欠損量が増加したことがわかった。また,高分解能透過型電子顕微鏡によって結晶構造を観察したところ,未処理の酸化チタンはアナターゼ構造を有していたが,処理後の酸化チタンには面間隔が0.35 nmの結晶が現れ,これはブルッカイト型の酸化チタンの面指数 (021) もしくは (111) に由来していた。すなわち,結晶構造の一部がアナターゼ型からブルッカイト型へ構造変化し,異なる結晶構造の相が形成されたことで,電荷移動に影響を与えたことが示唆された。これらの複合的要因によって,液中プラズマ処理酸化チタンの光触媒活性が向上したと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
可視光応答型光触媒において,既存の製品以上の性能を発揮する処理方法を考案しており,さらにその要因についても学術的側面からも検証した。窒素ガスを導入した液中プラズマ処理によって,アンモニア以外にも硝酸イオンが合成できることを確認し,プラズマ処理時間と生成量の関係を調べ,さらに溶液pHの変化も調査した。初期溶液の組成を最適化することで,窒素ガスを導入した液中プラズマ処理によって,肥料の三大栄養素となる,窒素,リン,カリを最適な量と溶液pH範囲で作り出すことができ,この溶液を用いて植物育成に応用できることを確かめた。また,この溶液には殺菌効果もあり,植物育成過程で藻や雑菌の繁殖がないことも明らかにした。
液中プラズマにおける対向電極間に窒素ガスを導入する方式を二重管ではなく,当初目的のとおり,中空アノードに改良することで研究を進める。こうすることで簡素化した電極構造とすることだけではなく,より効率的なガス導入を構築することができる。ガス導入が効率よく行えるのかについては,高速度カメラを使用し,プラズマに接触するガスを観察することとする。また,最適な条件で処理した高活性な酸化チタン光触媒について,処理方法とその効果をまとめた論文化を目指す。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件)
無機マテリアル学会会誌
巻: 22 ページ: 420-425