本研究では,高温構造材料として用いられているNi基超合金におけるき裂の発生と初期進展を対象にし,き裂進展挙動を支配する結晶学的・破壊力学的側面を明確にすることを目的にしている. 平成28年度は,一方向凝固材から結晶粒の方位や結晶粒径を系統的に変化させた試験片を切り出し,疲労き裂進展特性に与える結晶粒のサイズや結晶粒界の影響を実験的に検討した.負荷軸方向が<100>方位に配向する結晶粒では進展速度が大きく,<110>方位に配向する粒では小さくなった.また,結晶粒界近傍ではき裂進展速度が有意に低下し,この低下の度合いは粒界での3次元的なすべり面角度差やねじれ角を用いることで定性的に評価できた.つぎに,平成27年度までの実験結果を基に,き裂の3次元的な傾きを再現した有限要素モデルを作成し,弾塑性解析を行った.き裂先端応力場から算出した開口型応力拡大係数とせん断型応力拡大係数を用いてき裂進展速度を評価した結果,き裂先端に拡がるco-planarなすべり面上のせん断型応力拡大係数を用いるとき裂進展速度をある程度整理できたが,開口型応力拡大係数では整理できなかった.この結果を受け,き裂先端での塑性異方性を評価できる結晶塑性解析を行った.き裂先端に拡がる12種のすべり系すべてのすべり量を個別に評価し,独自に提案したすべり面活動量を表すパラメータにより,単結晶材で見られたき裂進展経路に合理的な説明を与えることが.また,このすべり面活動量を用いてき裂進展速度を評価すると,弾塑性解析で算出したせん断型応力拡大係数よりも実験結果を良好に整理できることが明らかになった.
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