粗大粒からの回折が斑点になることから,本研究では,その解決を目指して2次元検出器を利用した粗大粒のひずみ測定の研究を実施した. 初年度は,回折斑点位置から最適な応力値を決定する解析方法の確立を目指した.最小二乗解を探索する方法を利用せず,安定かつ収束性が優れ,導関数の不要な方法として,線形計画法を利用した最適応力値の探索を研究して,シンプレックス法による応力決定方法を確立し,独創的な「直接法」を完成した. 2年目は,直接法を利用して回折斑点からひずみを測定を試みた.その結果,粉末回折の前提である回折中心とX線照射中心が一致する平均操作が,粗大粒においては成立しないことが明確になった.その原因は,回折に与る結晶粒の位置が照射中心にないこと,粗大粒においては回折斑点が少なく平均操作が成立しないことである.その解決のために,新たに「π法」を提案して実施した.π法は,応力の持つ点対称性を利用して試料を180度回転し二重露光したX線回折像から応力を決定する方法である.それにより,回折斑点数の増加と回折位置が照射中心との一致が実現できる.しかし,π法で回折中心と照射中心の一致は十分ではなかった. 最終年度においては,前述の問題を解決するために,照射中心を利用しない回折角決定方法として新たに「二重露光法」を提案して,その実験を試みた.二重露光法は回折斑点のひずみ測定法として有力であることがわかった.所定のひずみを与え,二重露光法によるひずみ測定を繰り返した結果,十分な測定精度を得るためには新たな課題もあることもわかった.それは,結晶粒からの回折角を測定したとき,結晶粒の散乱ベクトルがX線入射ビームの発散角程度の広がりの影響を受けるために,二重露光法で測定したとしても,回折角度は,真の回折角度に個々の結晶のX線の発散角分の影響を含んでいることである.
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