研究課題
平板状周期セル中の貫通き裂について,分子動力学法による引張シミュレーションをbcc-Fe,ダイヤモンド構造Si,fcc-Niについて行い,結晶方位によるき裂進展挙動の違いを観察するとともに,き裂先端の原子弾性剛性係数(AES)の行列式の正値性,すなわち局所格子不安定性について検討した.bcc-Feでは,無負荷平衡状態ではき裂先端には不安定原子が存在せず,き裂垂直方向に引張を与えることでき裂先端に不安定原子が増加する.転位射出・双晶変形でき裂が鈍化する[001](010)き裂では,塑性変形による不安定原子の増加のためき裂進展挙動とき裂先端の不安定領域の関係は不明確となるが,ぜい性的に進展した[001](110)き裂や[112](111)き裂では,進展時のき裂先端の不安定原子領域は一定の大きさである可能性が示唆された.特に[112](111)き裂では,き裂進展時にき裂前縁の1原子列は原子弾性剛性係数の第二固有値が負となっている特徴的な挙動が観察された.ダイヤモンド構造のSiの解析は本年度は[001](010)き裂についてのみ行った.bcc-Feの場合と異なり,無負荷平衡状態でもき裂先端前縁に不安定原子列が存在した.他の研究で報告されているように,Siのき裂先端にはアモルファス化した局所相変態領域を生じてその後き裂が進展するが,この相変態領域はAESが負の不安定原子であること,局所相変態を開始する際の不安定原子領域の寸法は50原子程度,き裂が不安定進展する際の不安定原子領域の寸法は100原子程度と見積もられた.fcc-Niに関する検討は,bcc-Feと同様に3つの結晶方位について行った.bcc-Feと同様,無負荷平衡状態では不安定原子は存在せず,応力-ひずみ応答に非線形性が現れるときに不安定原子の発生→き裂先端近傍での局所塑性変形の発生などが確認された.[001](010)き裂では進展挙動が見られたが,[001](110)き裂や[112](111)き裂では塑性変形による開口が支配的となった.
2: おおむね順調に進展している
年度途中で所属機関の異動を生じたために,研究体制等を整えるのに時間を要し,研究成果をまとめて公表するまではいかなかった.しかしながら,研究計画に記した結晶のうち,hcp金属以外については今後の方向性を明確にする重要な結果が得られており,またそれらは公表するに十分足るものであると考える.
bcc, ダイヤモンド構造,fccのモードIき裂先端の局所格子不安定性について,極低温の,各結晶方位の1ケースの検討であるが,研究目的を遂行するに必要な明確な知見が得られたものと考える.研究計画では,次に熱揺動の影響を考慮した検討を実施する予定であったが,き裂先端の局所不安定領域の定量評価には極低温での検討がまだ必要と考える.現在の解析では,周期境界条件下でき裂が進展方向に並んだ構造であるため,同一面上にないき裂間の進展・合体条件下で,モードI型き裂における局所不安定領域の限界寸法を特定する.具体的には,貫通き裂を中央だけでなく四隅に1/4のき裂を配置した周期セルで寸法・アスペクト比を変え,き裂間の相対位置関係によらない局所不安定領域のクライテリアを算出する.その後は提出した研究実施計画にしたがって有限温度下の局所不安定領域の評価を進め,破壊力学パラメータとの比較・議論を行っていく予定である.
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Advanced Material Modelling, Eds, H.Altenbach. T.Matsuda and D. Okumura, Springer
巻: 1 ページ: 547-560