hcp構造のMg単結晶のモードIき裂について,底面き裂,柱面き裂,そして錐面き裂の3通りについて分子動力学シミュレーションを行うとともに,き裂の成長または転位発生による鈍化メカニズムを原子弾性剛性係数(AES)の正値性から検討した. 底面き裂ではセル長さに対してき裂が小さいときのみき裂先端からの転位射出が観察され,通常は(0001)面におけるぜい性的な破壊を示した.柱面き裂では常に60°方向の別の柱面に沿ったすべりを生じてき裂は鈍化した.錐面き裂では隣接する別の錐面に沿って斜め方向またはジグザグにき裂が進展した. き裂が不安定進展した底面き裂では,AESが負の固有値を持つ原子はき裂ごく先端に発生し,不安定成長直前の特異応力場は線形破壊力学による予測と非常によい一致を示した.一方,転位射出した柱面き裂では,負の固有値を持つ原子がき裂前方にバタフライ形状に分布し,破壊力学の応力分布とずれることが示された. 今年度は,不安定変形モードをさらに詳細に検討するために,AESの固有値が負となる原子の固有ベクトル(6つのひずみ成分)を求め,そのひずみテンソルの主軸によって変形モードを調べる手法を提案した.底面き裂ではき裂面に完全に対称なへき開不安定モードを生じているが,転位射出についてはき裂表面の原子の不安定モードが,すべり方向に一致したときに生じる原子移動がトリガーとなって,連鎖的かつ複雑な変形機構により転位が発生することがわかった.また,先述のバタフライ状に広がった不安定原子は,結晶方位と不安定モードが異なっているため構造変化を生じていないこともわかった.錐面き裂の不安定モードも複雑であるが,新しいき裂先端部分で開口方向に垂直な不安定モードが常に認められることも示された.
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