研究課題/領域番号 |
26420021
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
後藤 真宏 大分大学, 工学部, 教授 (30170468)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 疲労 / 結晶粒微細化 / 銅 / 疲労き裂 / すべり帯 / 動的再結晶 |
研究実績の概要 |
本研究では、高サイクル疲労強度特性の向上を目指し強変形加工材の微視組織構造とき裂に関わる損傷の物理的背景、き裂進展に及ぼす組織の影響と力学的背景を明らかにすることを目的とする。計画している研究項目は、① き裂発生挙動と微視組織構造の関連、②高サイクル領域の耐疲労特性の改善、③実用銅合金材料の疲労強度に及ぼす組織の影響である。それぞれの項目について、本年度得られた成果を以下に示す。 ①: ECAP材は強せん断と関係した異方性があり、異方性と関連し特定の位置から優先的にき裂が発生する傾向が強い。すなわち,平滑材では異方性と無関係に指定した任意の位置から優先的にき裂を発生させるのは困難であり、微視的き裂発生に及ぼすECAPせん断組織の影響の検討が合理的に行えない。本年度は異方性がある中、任意に指定した平滑部から優先的にき裂を発生させ、組織の影響を連続的に観察する手法を確立するための研究を行った。その結果,ECAP最終プレス方向を組織的に特定し、浅い部分切欠の加工と表面の連続観察を組合わせて行う手法を確立した。 ②:極めて高い導電性の維持には高純度の銅の使用が望ましい。しかし、微細化した純銅では、静強度の大きな増加に比べ、高サイクル疲労強度の増加は極めて小さい。この原因として、非平衡組織と動的再結晶が関与した結晶粒の粗大化が指摘されている。本年度は応力繰返しによる結晶粒の成長過程を明らかにした。 ③:純銅は導電性に優れるが、現時点では微細化しても高サイクル疲労強度の増加はあまり認められない。ところで、現在使用されている銅合金の疲労強度と組織構造の関係を明らかにすることも実用上の観点から必要である。そこで、コネクターなどの電子材料として使用されているCu-Ni-Si合金を用いて、疲労強度と組織の影響を明らかにする研究を行い、高応力下におけるき裂発生と組織の関係を調べる実験手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に述べた①~③の観点の異なる3つの研究を行った。 ①については、異方性がある中でも、任意に指定した平滑部から優先的にき裂を発生させ、かつ連続的に観察する手法を確立するための研究を行った。すなわち,エッチングによりECAP最終プレス方向を組織的に特定し、組織との対応関係を考慮して任意の位置に浅い部分切欠を加工する手法を検討した。その結果、部分切欠の最適な切欠半径(: 2.5mm)と深さ(: 0.1mm)を決定し、切欠底の平滑部(応力集中係数は~1.07)を直接観察とレプリカ法による連続観察を併用することで、異方性材料の任意位置に平滑材に発生したき裂と実質的には等価とみなせるき裂を発生させる今年度の研究計画を達成できた。 ②については、これまでTEM観察により局所的な結晶粒粗大化は報告されていたが、OMレベルで粗大化過程を明らかにした研究はない。応力繰返しの下で動的再結晶による結晶粒粗大化をOMレベルで明らかにし、ほぼ目的を達成できた。 ③については、コネクターなどの電子材料として使用されているCu-Ni-Si合金を用いて、疲労強度と組織の影響を調べる研究を計画した。すなわち、本年度は合金の最高硬さが得られる時効条件を求めた。さらに、電解研磨により表面影響層を除去してから組織を出現させた後、バフ研磨により腐食ダメージ層を除いて疲労試験を行い、結晶粒オーダーのき裂が発生した後に腐食により組織を再出現させる手法を確立した。ただ、本手法の確立と最適な電解研磨条件を見出すのに多くの時間が取られたため、予定していた疲労試験を行いS-N曲線を求める計画のうち、1000万回耐久限付近の応力下の実験が完了しなかった。 以上を総合して、実験項目①,②は予定通り完了し、③が当初研究計画からやや遅れたが、全体の研究計画にほとんど支障を与えないことから「おおむね順調に進展している」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度に引き続き3つの研究計画を並行して行う。すなわち、 ① 「き裂発生挙動と微視組織構造の関連」については、今年度確立した「き裂をECAPによる組織異方性の影響を受けず任意の位置に発生させる手法」を用いて、ECAPせん断面と試験片表面が45°と90°をなす位置にき裂を発生させ、発生挙動とその後の進展挙動に及ぼすECAPせん断方向の影響の物理的意味を明らかにする。このとき、表面におけるき裂の進展方向と内部方向の進展方向を調べ、組織が進展方向に及ぼす影響の検討も行う。なお、き裂の進展方向が応力レベルにより影響されることが報告されていることを考慮して、次年度は高応力下のき裂進展挙動に関する研究を優先して行う。 ② 「高サイクル領域の耐疲労特性の改善」については、今年度確立した結晶粒粗大過程を調べる手法を、き裂発生に繋がるすべり帯発生と粗大化の関係を調べる研究に適用し、疲労強度を低下させるき裂の発生に至るメカニズムを検討する。 ③ 「実用銅合金材料の疲労強度に及ぼす組織の影響」については、今年度積み残したCu-Ni-Si合金の1000万回の時間疲労限度近傍の低応力下の研究を行いS-N曲線を求める。さらに、次年度の主な研究目的であるき裂発生場所と組織の関係を調べる研究を行う。また、発生後のき裂の進展経路と組織の関係を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究項目③に関して、疲労強度と強変形組織の影響を調べるため、電解研磨とバフ研磨および疲労試験中の連続観察を組み合わせた観察手法を確立した。その結果、き裂発生箇所と微視組織の関係が明らかにでき、疲労損傷の物理的背景が検討出来るようになった。しかし、本手法の確立と最適な電解研磨条件を見出すため試行錯誤を繰返し多くの時間が取られ、疲労試験が予定していた研究計画の通り進まなかった。そのため、一部の消耗品を購入しなかったこと、予定していた学会までに研究成果が間に合わずこのための旅費などが執行できなかったことなどにより次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、設備物品の購入は無く、研究遂行に要する消耗品類、研究成果発表のための旅費および調査研究のための旅費、およびその他経費(論文掲載料・学会登録費など)を使用する計画である。 なお、本年度の使用予定研究費から178,430円の残額が生じた。これらついては、次年度に消耗品を購入すると共に、研究計画の遅れのため本年度中に発表できなかった研究成果を国際会議等に発表するための旅費として執行する予定である。
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