研究課題
本研究は,画像相関法により機器・構造物のひずみ分布測定を行い,その結果を用いて弾塑性材料特性の分布を逆問題解析により評価する方法を確立する事を目的とする.本研究では,まず,弾塑性材料特性逆解析方法の原理について検討した.弾塑性構成方程式を仮想仕事の原理に代入することで仮想変位およびひずみと測定により得られる変位およびひずみの関係式を得ることができる.そこで,未知数と同じ数の仮想変位場を用意し,連立方程式を解くことで材料特性を同定する.実際の逆解析の際には有限要素法を利用して計算することとし,逆解析プログラムを開発した.提案する原理および作成したプログラムの妥当性の検証のため,有限要素順解析により得られた変位分布から材料特性を逆解析するシミュレーションを行った.その結果,弾塑性材料特性を精度よく評価可能であることがわかった.次に測定により得られた変位場から逆解析を試みた.本研究代表者がこれまでに開発した有限要素モデルを利用した2次元画像相関法により変位場を測定し,得られた変位場から材料特性の逆解析を行った.その結果,測定対象が弾性変形している場合には,縦弾性係数およびポアソン比を未知数とする逆解析によりそれらを高精度に同定することができた.塑性変形後には,弾塑性材料特性を全て未知数として逆解析することを試みたが,妥当な結果を得ることができなかった.そこで,縦弾性係数とポアソン比を既知とし,塑性パラメータのみの同定を行ったところ,単軸の引張試験により得られた応力ひずみ線図とほぼ一致する結果を得ることができた.以上のことから,弾塑性全ての材料特性を同時に得ることは現時点で困難であるものの,提案する方法が妥当であることを示すことができた.
2: おおむね順調に進展している
測定誤差の大きいデータを逆解析の入力として用いることはできないため,高精度な測定が要求される.本研究代表者は,画像相関法により変位の値を1/50画素の精度で測定する技術を有しているが,それに加えて測定対象の自由境界や界面付近などこれまで測定精度が低下していた部分においても高精度な測定を可能とする有限要素メッシュ画像相関法を開発した.この方法を用いて変位場の測定を行い,さらに高精度なCCDカメラを利用することで高精度な測定を可能とした.提案する逆解析法では,仮想仕事の原理に仮想変位場および測定により得られた変位場を代入することで得られる非線形連立方程式を解くことで材料特性を決定する.実際に方程式を解く際にはニュートン・ラフソン法を用いる.ここで,ヘッセ行列すなわち方程式の勾配を解析的に得ることができないため,数値微分を用いることで計算を実現する.また,入力した仮想変位場や測定変位場を用いた領域積分および境界積分の計算は有限要素モデルを用いて行う.以上の複雑な計算を行うプログラムを作成し,有限要素順解析により得られた変位場を利用したシミュレーションにより,提案する方法の原理と作成したプログラムの有効性を示した.さらに,テーパー試験片の変位分布を測定し,得られたデータから実際に逆解析を行った.測定対象が弾性体であるという前提で弾性材料特性の逆解析を行ったが,それらは高精度に同定することができた.次に弾塑性材料特性の同定を試みたが,繰返し計算が発散し,全てのパラメータは同定することは困難であった.しかしながら,弾性材料特性は既知であるという前提で塑性材料特性のみを未知量としたところ,それらは高精度に同定可能であった.以上のことから,今後の検討課題はあるものの逆解析が可能な原理を確立することができ,さらにそれを実行することが可能であることから,計画はおおむね順調に進んでいるといえる.
今後の研究課題は大きく2つに分けることができる.まず,材料特性分布の評価法の確立を目指し,試験片の局所部分に解析対象領域を設定しその領域におけるひずみ分布測定結果から材料特性を評価する方法を検討する.ここで,この時点では局所領域というのは必ずしも微小領域である必要はなく,測定対象物体(試験片)の内側であればよい.この場合,解析対象領域の境界条件は未知であるため,材料特性の同定に対して必要な荷重値を知る事ができない.しかしながら,本研究で用いる方法は,解析対象領域境界の一部の荷重値を利用して材料特性の同定が原理的に可能である.この原理そのものの有効性はすでに確認済みである.ここでは,遠方での荷重の測定値を用いて解析対象領域の一部の境界の荷重を推定する必要があるため,その方法やそれを実現するための条件(対象物体の形状・負荷方法・荷重の測定方法)などについて検討する.なお,ここでは局所領域での材料特性の評価法の確立をめざすため,まずは線形弾性体(等質弾性体および非均質弾性体)を対象として検討を行う.もう一つの課題は,逆解析に適した仮想変位場をできれば自動的に決定することである.本研究代表者は,弾性材料を対象とした場合に測定誤差の影響を最小化する適切な仮想変位場を自動的に決定する技術を開発している.この技術を弾塑性材料に拡張可能かどうか検討し,弾塑性材料特性を精度よく同定する方法の確立を目指す.
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Journal of JSEM
巻: 14 ページ: s147-s152
10.11395/jjsem.14.s147