研究課題/領域番号 |
26420026
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
來海 博央 名城大学, 理工学部, 教授 (30324453)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 顕微ラマン分光法 / ラマン散乱強度 / 多焦点多点分光 / 広範囲測定 / グラフェン / 結晶方位依存性 / ひずみ測定 |
研究実績の概要 |
本研究では,多焦点PID偏光顕微ラマン分光応力測定法による樹脂系複合材料の高速応力マッピング技術を確立するために,平成26年度に実施する予定であった多焦点PID偏光顕微ラマン分光応力測定装置の要素ならびに装置の開発の内,一部残っていた次元変換ファイバーを含む光学系の構築と,平成27年度以降に実施予定であった多焦点PID偏光顕微ラマン分光応力測定装置による樹脂系複合材料の高速応力マッピングに向けた基礎技術の検討を行った. まず初めに,多焦点ならびに多点分光を行うためのラマン分光応力測定装置の構築を行った.前年度に設計した次元変換バンドルファイバーを用い,マイクロレンズアレイで16点の多焦点を形成し,各点から得られるラマン散乱光を同時に分光できる光学系を構築した.この装置を用い,単結晶シリコンに対して多焦点多点分光測定を行った.全体的にラマン散乱強度が低下したものの,16点すべてから同時にSiの代表的なラマンスペクトルを得ることに成功した. 次に,樹脂系複合材料の応力マッピングを実現する為,炭素繊維の最小構成単位であるグラフェンのラマン散乱強度の結晶方位依存性と炭素繊維の応力成分同定技術の検討を行った.まずレーザーの偏光方向とグラフェンの結晶方位の関係からラマン散乱強度の変化を理論的に導出し,グラフェンのラマン活性のピーク(A1gと2つのEgモード)を独立に検出する偏光方向を理論的に明らかにした.さらに実験的に偏光方向に対するラマン散乱強度変化を検証し,理論と良い一致を示すことを明らかにした.そして,得られた偏光方向でレーザーを照射しグラフェンシートに負荷ひずみを与えながらラマンシフト変化量を測定した.その結果,A1gと2つのEgモードのひずみとラマンシフトの関係に直線関係が得られ,グラフェンのひずみ測定の可能性を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では,前回やり残していた次元変換ファイバーを含む光学系を完成させ,その特性について検討した.さらに単結晶シリコンに対し,多焦点でレーザーを照射し,各点を独立かつ同時に分光する多点分光を実施し,16点からシリコンのラマンスペクトルを得るところまで装置を構築した.さらに多点分光の光学系を利用し,新たに単焦点多点分光測定の可能性を見つけることができ,多焦点多点分光の短所を補える可能性が発見できた.しかしながら,多焦点と多点分光の一対一の対応関係や最適光学系を検討できていいない為,平成28年度の課題となっている. 一方,樹脂系複合材料の応力測定に向けては,基礎技術を検討できた点が挙げられる.単層グラフェンに対しラマン散乱強度の結晶方位依存性を理論的に明らかにするとともに,実験的にも検証し良い一致がみられ,これに伴いA1gと2つのEgモードを独立に評価できる偏光方向を明らかにできた.さらに,その偏光方向を利用しひずみ負荷に伴うラマンシフト変化量を3つの振動モードに対して得ることができた.しかしながら,精度の点については再度詳細に検討する必要があり,平成28年度の課題となっている. 以上のことから,おおむね順調に進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,平成27年度に構築した多焦点多点分光偏光顕微ラマン測定装置の最適化を実施する.現在,多焦点が形成され,そこから得られるラマン散乱光を多点で検出かつ分光するところまでできているが,検出散乱強度が想定よりも低いため,応力測定を行う際にはその強度が問題となる.そこで強度の高いレーザーの導入を検討するととともに光学系の最適化を行い応力測定が可能な散乱強度となるよう検討する.さらに面分光ならびに単焦点多点分光測定の測定実績を増やすことで,ズーミング測定が可能となるような装置へと構築し,種々の材料(シリコン,アルミナ,TBC)について測定して検証を行う. 一方,樹脂系複合材料の応力測定に向けて,基礎技術を検討で問題となった点を再度検討する.3つのピークを独立に検出する偏光方向は実験的にも明らかにしたが,ひずみに対するラマンシフト変化量の関係が精度よく測定できていない.そこでまず,単層グラフェンシートを用いて再度,ひずみ負荷過程におけるラマンシフト変化量について検討を行う.ここで得られた関係を用いて,炭素繊維ならびに樹脂系複合材料の応力測定を試みる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に実施したラマン散乱光直接イメージングの際に必要となるバンドパスフィルターを購入する予定であったが,当初予定とした測定対象物に対する狭帯域バンドパスフィルターは大変高価であるため,現段階では測定対象物を変えることで所有のバンドパスフィルターで対応した.今後,測定実績を増やしたうえで,最適なバンドパスフィルターを検討して購入する為,今回の購入を見送った.また,平成27年度に実施したグラフェンのひずみとラマンシフト変化量の関係で線形性が得られたものの,精度が良くなかった.その原因の一つに単層グラフェンを転写している基板の影響があることが分かったため,その基板の種類をより精緻に検討した上でグラフェンシート購入する為,次年度の使用が発生した.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の使用計画としては,まず装置の最適化に必要となる光学素子(ミラー等)の購入とともに,ラマン散乱光の直接イメージングを行う際に必要となるバンドパスフィルター等の光学素子の購入に予算を充てる.また応力測定に向けて,炭素繊維のひずみ・応力測定で必要となるグラフェンのひずみとラマンシフト変化量の関係を得るために,単層・多層グラフェンシートを購入する予算に充てる.また,応力測定をする炭素繊維複合材料(CFRP)の加工が必要な場合には,その加工費にも充てる予定である.
|