研究課題/領域番号 |
26420030
|
研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
上辻 靖智 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (00340604)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | マルチスケール解析 / 非線形有限要素解析 / 第一原理計算 / 無鉛圧電材料 / ドメイン・スイッチング / 構造相転移 / モルフォトロピック相境界 |
研究実績の概要 |
本研究では,巨大圧電特性を発現する新規無鉛材料の設計・開発を支援するため,均質化法に基づいた第一原理マルチスケール・マルチノンリニア解析法の構築を目的とする.巨大圧電特性発現の鍵は,複数の結晶構造が互いに相転移可能な状態で共存することで,微視構造における分極回転(ドメイン・スイッチング)が容易に生じ巨視的に優れた機能を発現するモルフォトロピック相境界にある. 平成26年度は,第一原理マルチスケール・マルチノンリニア解析法の構築を目的として,均質化法に基づいた定式化および第一原理計算に基づいた結晶状態判定法の開発に着手し,これらを組み込んだ解析プログラムの開発を開始した.具体的には,構造相転移や分極回転により結晶構造および方位が変化した場合,材料物性が大きく変化することから,これらを考慮した増分形構成則を採用した.均質化理論に基づいて,変位増分および静電ポテンシャル増分の漸近展開式を導入し定式化した.導出したミクロおよびマクロ方程式は有限要素法により離散化し,これまでに開発したマルチスケール有限要素解析プログラムを基にして新たに本解析プログラムを開発している. 上記の解析プログラムの開発と並行して,スパッタ薄膜による検証実験のための基礎データ収集と下部電極層の創製実験も開始した.予備調査によりスパッタ薄膜創製において緻密なターゲット組成調整が必要であると判明したため,ターゲット創製のための遊星ボールミルを購入し整備した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,有限要素解析,第一原理計算,検証実験の3つの項目に大別される.まず,有限要素解析については,平成26年度前半に構造相転移や分極回転により結晶構造および方位が変化した場合,材料物性が大きく変化することを考慮した増分形構成則を導入し,均質化法に基づいた定式化を計画の通りに終えた.後半には,これまでに変位-電位連成問題に対して開発したマルチスケール有限要素解析プログラムに得られたミクロおよびマクロ方程式を反映し,目的とする第一原理マルチスケール・マルチノンリニアプログラムを開発中である.また,エネルギー放出密度増分に着目し,構造相転移と分極回転のいずれに対しても統一的に結晶状態を判定可能な方法を構築した.判定には第一原理計算より得た全エネルギーを使用する必要がある.今後は,構築した判定法を有限要素解析プログラムに組み込んで,不具合を修正しながら進める予定である. 次に,第一原理計算において,ペロブスカイト酸化物を対象として非対称安定構造を解析した.具体的には,先行研究で発掘した無鉛圧電材料A(B,B’)O3,(A,A’)BO3,(A,A’) (B,B’)O3を対象とし,立方晶,正方晶,斜方晶,菱面体晶での自発分極や全エネルギーを評価し,エネルギー関数構築のための入力データを計画のとおり収集した. さらに,検証実験の準備として,スパッタ薄膜を成膜する下部電極層の結晶構造を検討し,平成26年度はSi/Auを対象としてスパッタ温度,圧力のデータを収集し,当初の計画を変更なく終えた.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,平成26年度に着手した解析プログラムの開発およびマルチスケール・マルチノンリニア有限要素解析への入力データ構築を継続する.最初に,第一原理計算より非対称安定構造を評価し,得られた結晶物性(弾性係数,誘電率,圧電応力定数,自発ひずみ,自発分極)を有限要素解析に入力する.第一原理計算から得た全エネルギーと自発分極から熱力学エネルギー関数の係数を同定すると同時に,格子不整合ひずみを考慮するため機械的エネルギーも組み込む.構築したエネルギー関数に基づいて最小エネルギー経路を探索し,経路に生じる最大エネルギーギャップを構築した結晶状態判定に導入する.また,格子不整合ひずみに関する状態図を予測し,2相以上が共存する境界を特定してマルチスケール解析のミクロ構造モデルに反映する.熱力学エネルギー関数の係数同定および状態図の予測には,科研費若手B(平成22~24年度)で開発した方法を採用する予定である. また,検証実験のための基礎データ収集と下部電極層(バッファ層)の創製実験も継続し,単晶スパッタ薄膜の創製実験を開始する.特に,第一原理計算に基づいた状態図で見出したモルフォトロピック相境界の薄膜を創製するため,基板との結晶整合性を幾何学的に評価し,基板材料および結晶面を選定して目標とする格子不整合ひずみに調整し,下部電極層を形成する計画である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画とおりの支出であったが,物品の見込み価格と販売価格の差から残額が生じた.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の消耗物品費に充当して使用する.
|