研究課題/領域番号 |
26420033
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
金成 守康 茨城工業高等専門学校, 電子制御工学科, 准教授 (70331981)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 空孔 / 等方加圧 / 密度 / 弾性率 / 硬さ / 曲げ強度 / 高分子材料 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、第一に、低分子有機半導体膜の等方加圧特性についての包括的な考察を行った。第二に、高分子膜のコーティング方法の最適化と加圧試験を試行した。 加圧による低分子膜の密度上昇(膜厚減少)は、結晶粒形状と粒径のバラツキに起因すると結論づけられる。表面モルフォロジー観察と計算によって予測されるアズコート膜の空孔率は、粒径が一様な柱状結晶のペンタセンでは9.3%以下、粒径にバラツキがある球/楕円体状結晶の銅/亜鉛フタロシアニンでは22%以下、粒径が一様な球/楕円体状結晶のメタルフリーフタロシアニンとAlq3では36.4~47.6%である。加圧前後の膜厚測定から確認された膜厚減少率は、これらの値の範囲内にある。コーティングされた薄膜中に、結晶粒形状等に依存して高い比率で空孔が存在することや、加圧によって空孔が押し潰されることは本研究において初めて検証された。アズコート低分子膜の弾性率と硬さは、広範囲な4.9~15.2GPaと0.16~0.64GPaでバラツいていたが、加圧後のそれぞれの値は、8.0~11.4GPa、0.39~0.52GPaの範囲に収束した。この結果は、十分に高密度な等方性の低分子膜は概ね同じ力学的性質を持つことを示している。低分子膜の研究成果は、学術雑誌に掲載された。 高分子膜の加圧では、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)について加圧特性を調べた。PMMA溶液は、アセトンを溶媒に用いた。加圧の膜厚依存性を比較するために、ドロップキャスト法とスピンコート法で作製したそれぞれの膜について等方加圧を行った。加圧前のスピンコート膜の膜厚は、460nmであったが加圧によって50%以上減少した。ドロップキャスト膜も同様に膜厚減少した。溶液を用いるPMMA膜においては、溶媒の蒸発によって膜内に空孔が形成されたと結論づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画は、低分子膜の包括的な等方加圧特性を総合的に考察すること、および、高分子膜のコーティング条件を適正化して加圧効果を調べることだった。低分子膜では、3種類(メタルフリー、銅、亜鉛)のフタロシアニン、Alq3、ペンタセンにおいて、膜の加圧特性はそれぞれの結晶粒形状と粒径のバラツキに起因するとの結論を得た。低分子膜の研究成果は、学術雑誌に掲載された。高分子膜では、コーティングのノウハウを蓄積したPMMAについて、ドロップキャスト法とスピンコート法で作製した膜について、等方加圧を行い、加圧による膜厚の減少(高密度化)を確認した。また、PEDOT/PSSについても、均質なスピンコート膜が作製できることを確認した。その一方で、水溶液でコーティングするPEDOT/PSSは、ガラス基板との密着性が低かったことから、微量の界面活性剤を水溶液に添加することによって密着性を改善し均質な膜をコーティングすることとした。 以上の理由から、27年度の研究計画を概ね達成したといえる。 計画した課題を達成して研究が進展したことにより、高分子膜上に積層する低分子膜の加圧特性への影響を調べる研究を発展的に実施する必要が生じた。このため、平成28年度以降は、積層化した低分子膜の等方加圧を併せて試みる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、研究計画に従い、高分子膜の作製とその等方加圧特性を調べる。 高分子膜の加圧は、主に、有機薄膜トランジスタの電気絶縁層に用いられるPMMA、有機EL・有機太陽電池デバイスの正孔注入層やコンデンサとして広く用いられるPEDOT/PSSについて実施する。PMMAは、アセトン有機溶媒中に溶かした溶液を用い、PEDOT/PSSは水溶液を用いる。両材料の溶媒の違いによって乾燥や熱処理方法を最適化する必要があるため、すでに作製した実績があるPMMAについて、膜厚の加圧への影響を調べるためにドロップキャスト膜とスピンコート膜を室温乾燥で作製する。加圧前後の膜厚、弾性率、硬さを測定して、等方加圧による高密度化の効果を確認する。また、乾燥後に熱処理したPMMA膜についても等方加圧の効果を確認する。 PEDOT/PSSは、すでに、そのドロップキャスト膜について等方加圧を行ったが、高密度化が確認できなかった。その原因として、水溶媒を用いているために、膜内部から水溶媒を十分除去ができていない可能性がある。スピンコーティング法を用いて厚さ1μm程度の薄膜を作製して、電熱ヒータを用いて乾燥方法を最適化しながら、等方加圧による膜厚や力学的性質の変化を確認する。研究の進展により、他の高分子膜(例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT))についても等方加圧特性を調べる。緻密な高分子膜は、粘弾性・擬弾性特性によって加圧の最大変位に対して約60%弾性回復する。弾性回復によって常温において十分な改質効果が得られない場合には、ヒーター加熱によって膜を軟化させた後、加圧を試みる。 研究の進展により、実用性を考慮して、高分子膜上に積層する低分子膜(例えば、CuPc/PMMA)の加圧特性を発展的に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた論文投稿料(その他)が無料であった。また、研究成果の内容を精査して十分な考察を行ったことから、27年度に予定していた国際会議発表を28年度に実施することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度に予定していた国際会議発表を28年度に実施する。
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