研究実績の概要 |
平成28年度は、高分子系の電気絶縁膜と導電膜について等方加圧処理による高密度化の効果を検証した。 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は、有機トランジシタのゲート絶縁膜に用いられる。押込み試験に適した厚膜化ができるようにアセトン溶液のスピンコート条件を最適化し、ガラス基板上にコーティングした。断面形状測定と押込み法による膜厚測定から、加圧処理によって20%以上高密度化されたことを確認した。加えて、押込み試験結果からは、加圧前後で膜の弾性率および硬さが、それぞれ30%以上高くなったことを確認した。これらの研究結果から、PMMA膜内部の空孔が等方加圧によって圧壊され、膜が高密度化・高強度化したと結論付けられる。 ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT/PSS)は、フルフレキシブルな有機デバイスの電極膜として期待される。2種類のPEDOT/PSS薄膜をガラス基板上にスピンコートして加圧特性を調べた。すなわち、PEDOT/PSS水溶液の基板への濡れ性を高めるために界面活性剤を添加した溶液を用いた膜(活性剤膜)と高沸点有機溶媒をさらに添加した溶液を用いた膜(溶媒膜)である。これらの膜について、加圧処理前後の表面観察と膜厚測定を行った。活性剤膜は加圧前後の変化がほとんど無かった一方、溶媒膜では、結晶粒が加圧によって押し潰されると共に、20%の高密度化が確認された。PEDOT/PSSは、導電性のPEDOTを親水性のPSSによって殻状に覆うことによって水溶液中に均一分散される。活性剤膜では、PSSが大気中の水分を膜中に吸収し加圧効果が得られなかった一方、溶媒膜では、有機溶媒がPSS殻を除去することによって膜中にある空孔への水吸収を防いだ結果、加圧によって空孔が圧壊されたと結論付けられる。
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