研究課題/領域番号 |
26420041
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 智久 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70334513)
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研究分担者 |
朱 疆 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (70509330)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薄膜干渉 / YVO4レーザ / チタン / 色相 / 明度 / 表面粗さ / 酸化膜 |
研究実績の概要 |
本研究で対象とするレーザカラーリングは,金属表面に形成された酸化被膜の上面,および基材と酸化膜の境界からの反射光の干渉を利用した発色方法であり,研究の最終目的は酸化膜の厚さや表面性状を制御することで,複数の色を用いた精細なカラーリングを実現する事である. 初年度であるH26年度は,既設のレーザ微細加工機を用いた基礎的な実験から目標とする多色カラーリングシステムに要求されるレーザスペックを検討し,その結果に基づいて低出力において安定した発振が可能なレーザ装置を選定・導入した.H27年度は,新規導入したレーザを用いて前年度に検討した発現色理論予測が,新たに導入した加工機でも若干の修正により適用可能である事を確認した.続いて,従来より広い面積への適用を試みた結果,ムラの無い一様な色を得られ,本原理が比較的広い面積からサブミリ程度までの精細なカラーリングに適用できることがわかった. 一方,前年度までは一様な酸化膜を仮定した色予測を行ったが,実際のレーザは強度分布を持つため解像度の高いカラーリングの実現のためにはレーザスポット内部の酸化膜の生成状況を考慮に入れて,最終的に得られる色と対応づける必要がある.そこで,レーザを1,2本の直線状にパラメータを変化させながら照射し,照射後の生成酸化膜などの形状計測と局所的な発現色分布の観察から,ミクロな局所発色状態とマクロに観察される色との関連を調べた.その結果,微視的には膜厚が場所ごとに異なっており,各所において対応した色が発現していることがわかった.従って,マクロな色は各所の色から得られる混色となっているが,この色変化とレーザパラメータの関係は発色の理論予測と同じ傾向である事が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に新規導入した低出力YVO4レーザと長焦点レンズを組み合わせ,従来と比較して100~200倍程度の広い面積に対して色ムラのないカラーリングを可能とした.また,緩やかな曲面に対しても焦点の位置ずれの影響が抑えられることで,試験片の平面度の影響を抑えることができるようになり,パレット状にカラーリングして多数のレーザパラメータ実験を行う際の再現性が向上し,実験結果の信頼性を高めることができた.このことは,今後行う実験の効率が向上するだけでなく,本システムを実用化して3次元形状の表面にカラーリングを行う際にもレーザスキャンと対象部品の姿勢制御をリアルタイムに行わずとも,適切なレーザ走査プロセスを設計することで十分な色相精度と効率を両立する事が可能であると期待できる. また,これまでに構築した膜成長モデルの高度化のために,基礎的な実験として単一の線状走査と,近接する2本の直線状にレーザ走査を行ったチタン試験片について,形状と微視的な色の分布を詳細に調べマクロの発現色とミクロの色分布の関係について調査を行った.これにより,レーザ照射部にできる窪みが色明度を下げる働きをする一方,走査部に隣り合う領域に比較的広い範囲に幕を成長させることで,全体として主となる目標色が実現されることがわかった.従って,色の純度を上げつつ明度を制御するという最終目標のためには,この両者の比率をレーザと走査パラメータにより制御する事が重要であることが示唆された. 一方,これまで主な応用先としてチタンを用いた医療用部品を考えてきたが,短時間で精度よくカラーリングできる本原理の特徴を生かせる腕時計などの宝飾品への適用を考慮して,いくつかの形状のステンレス部品への適用を試みた.その結果,ベース材の表面により彩度は左右されるが,チタン同様多色カラーリングが可能である事が確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から比較的低いエネルギー密度のレーザを複数回照射することにより,表面が比較的滑らかな酸化膜を成長させる事ができ,これにより明るく純度の高い色相を得られる事がわかった.一方,微細な窪みなど表面の凹凸を変化させ,また照射回数とレーザ走査線の間隔を適切に調整することで,明度の制御の可能性も確認できたため,これらの要素を同時に変化させることができるよう既存のシステムの改良を行い,レーザ照射パラメータと色相-明度のマッチングを行う.そして,得られた結果をデータベース化し,それに基づいて所望の色を直ちに再現できるよう自動パラメータ設定機能を付加する.また,指輪や時計などの宝飾品への応用展開も視野に入れており,対象金属が変った際に,テスト照射と色計測を組み合わせたキャリブレーションにより照射パラメータを自動調整する機能の追加も検討中である. 一方,本来の最終目標である医療用複雑3次元パーツへの微細カラーリングシステムの構築のためには,位置・姿勢制御を高精度に行う機能をシステムに付加する必要がある.前年度では発現色の質の向上を優先したためこの機能の実装が途中である.ただし,非接触形状計測データから高精度に3次元モデルを生成・配置する技術に関しては,研究分担者が従来研究を進めてきており,それらの研究の中ですでに開発済みの技術を流用できることから,比較的容易に組み込むことが可能であると考えている. 最後に,次年度が最終年度である事から上記で開発したソフト・ハード両面の各機能を統合し,ユーザインタフェースも含めた複雑形状微細カラーリングシステムを構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表のための旅費,および参加費として使用予定であったが,本課題で対象としている,金属レーザカラーリングのメカニズムについて詳細に調べる必要性があると判断した.このため,学会発表に優先して基礎的なデータ収集を進めることにし,対外的な発表は論文投稿も含め,より完成度の高い内容で次年度に行う事が望ましいと考え,その費用として繰り越しを行った.
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画がおおむね順調に進んでいることから,研究計画最後の年である28年度は当初予定より多く学会などでの発表を行う事を計画しており,その際の参加費や旅費などで使用する.さらに,得られた成果を論文として投稿する計画があり,その際の掲載料としても使用予定である.
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