申請者らはこれまで,生産現場への適用が容易でかつ,切削工具寿命の改善効果を持つ各種の手法について各種方法を提案し,それぞれの切削加工特性について実験的,解析的な検討を行ってきた.その過程で,純チタンやチタン合金に関して,外周旋削加工時に窒素ガスを切削点に供給することによって完全ドライ環境下でありながら高速切削速度域で摩耗を低減できる可能性を見いだした.本課題ではこのような切削点の雰囲気を通常の大気からガス雰囲気に換える事による切削工具摩耗の低減効果が発現するメカニズムを解明し,純チタンやチタン合金材料の切削加工の環境対応と高生産性を同時に達成する手法を確立させることを研究目的とした. 初年度および2年目の成果(報告書より)比較実験のためにN2雰囲気中でS45C構造用炭素鋼の外周実験を実施.切削点温度が雰囲気にかかわらずほぼ一定であること,切りくず表面の生成物のXPS観察結果から表面の酸化物生成状態は大気中では200nm以上の厚さの酸化膜が形成されるのに対し,窒素雰囲気中の加工では酸化膜厚が20nm以内に抑制されることが明らかになった. 最終年度はチタン合金の雰囲気中切削加工実験を実施し,工具-被削材熱電対法による精密な切削点温度計測を行った結果,構造用炭素鋼と同様雰囲気の違いによる切削点温度の変化はほとんど無いことが明らかになった.その一方でV=210m/minの高切削速度域では横切れ刃境界部の外側での酸化に明らかに差異が見られることを見いだした.以上のことから切削点をN2雰囲気とすることにより,工具切れ刃の境界部において工具の酸化が効果的に抑制されることによって工具寿命が改善されたと結論づけられる.本課題を通じて工具すくい面,切りくず間や切れ刃境界部近傍の解析が進んだ一方,仕上げ面や逃げ面の解析については今後さらなる解析が必要である.
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