研究課題/領域番号 |
26420058
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
神崎 昌郎 東海大学, 工学部, 教授 (20366024)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 切削加工 / コーテッド工具 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
TiB2+α‐MoS2複合膜において高温潤滑性能が発現する温度条件の探索することを目的に,摩擦摩耗試験前にTiB2+α‐MoS2複合膜を大気中で加熱処理を行った.400℃で1時間加熱したTiB2+α‐MoS2複合膜の室温での摩擦係数は0.1程度であったのに対し,200℃での摩擦係数は0.01まで低下し,無潤滑下でありながら超低摩擦特性を示した.また,TiB2+α‐MoS2複合膜はほとんど摩耗しなかった.この結果は,加熱処理をしていないTiB2+α‐MoS2複合膜のそれとほぼ同様であった.ただし,摩擦摩耗試験前の加熱処理温度を500℃以上にすると,室温,200℃いずれの摩擦試験温度においても摩擦係数は0.8以上であり,TiB2+α‐MoS2複合膜の摩耗が著しく進行した. 超低摩擦特性発現の要因を明らかにする目的でXPS分析を行ったところ,400℃までの加熱処理においては,TiB2+α‐MoS2複合膜の化学組成および結合状態にほとんど変化はなかったが,500℃以上で加熱処理をすることにより,複合膜最表面のBおよびSが減少するいことが明らかとなった.これらのことから,現時点では200℃以上での摩擦摩耗試験を実施できていないものの,現状のTiB2+α‐MoS2複合膜が超低摩擦特性を発現する上限温度は400℃近辺と考えられる. このような超低摩擦特性は,我々が研究開発を続けてきたTiN膜をベースとしたTiN‐MoS2複合膜では発現することがなく,また,TiB2単体の膜でも得られることはない.したがって,本研究で着手したTiB2+α‐MoS2複合膜においてのみ,ホウ素を含むガラス質固体の生成溶融とMoS2の潤滑効果の重畳により得られる超低摩擦特性であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように,TiB2+α‐MoS2複合膜において超低摩擦特性を発現させることは可能となり,その上限温度を示唆する結果も得られている.ただし,超低摩擦特性を有するTiB2+α‐MoS2複合膜の硬度は10GPa程度であり,TiB2膜の硬度の3分の1程度である.また,切削工具表面にTiB2+α‐MoS2複合膜をコーティングした場合には,その密着力は十分ではない.したがって,TiB2+α膜をコーティングした切削工具を用いてTi合金を切削した場合には,切り屑排出性を改善することが出来たが,それをさらに発展させたTiB2+α‐MoS2複合膜をコーティングした切削工具とMQL加工を組み合わせた難削材の加工実験は十分行うことが出来なかった. また,TiB2+α‐MoS2複合膜との親和性の高い切削油(低環境負荷の植物油あるいは生分解性合成エステル油)の開発も本研究のテーマとしたが,これに関する知見を得ることは出来なかった.したがって,切削油を開発した段階で実施する予定であった,超硬合金製あるいはサーメット製スローアウェイチップにTB2+α‐MoS2複合膜を形成したコーテッド工具を用いてのTi合金およびNi基超合金切削加工時の加工性能の明確化が出来ていない.あわせて,市販の耐熱性薄膜(AlCrN膜,TiSiN膜等)コーテッド工具との加工性能の比較を行い,TiB2+α‐MoS2複合膜の特徴を顕在化させることも不十分であり,当初計画に比べ遅れている面があることは否めない.
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように,現状のTiB2+α‐MoS2複合膜は難削材加工用のコーティング材としては,硬度および密着力が十分ではない.この主たる要因はMoS2含有量の多さと考えられる.したがって,今後はTiB2+α‐MoS2複合膜形成時の基板に0~-300Vのバイアス電圧を印加し,結晶性の高い(層状構造が発達した)MoS2が得られる条件を明らかにするとともに,摩擦特性を評価し,MoS2含有量10%以下で超低摩擦特性が得られるTiB2+α‐MoS2複合膜形成条件(印加電力,バイアス電圧,酸素分圧)を決定する. また,TiB2+α‐MoS2複合膜との親和性の高い切削油の開発も継続して行う.この切削油の開発は研究協力者のフジBC技研とともに進める.また,切削油をミスト状に供給する際のキャリアガス中の酸素の有無やキャリアガス供給量による切削抵抗の変化を測定し,TiB2+α‐MoS2コーテッド工具に最適な加工条件を明らかにする.なお,TiB2+α‐MoS2複合膜との親和性の高い切削油の開発およびキャリアガスの選定により,被削材の種類によらずTiB2+α‐MoS2コーテッド工具での優れた切削性が得られ,かつ通常の1/1000以下の切削油供給量(100ml/h程度)で潤滑性が発現することを目指していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで述べてきたように,TiB2+α-MoS2複合膜の硬度および密着力が十分ではなかったため,当初の予定よりコーテッド工具を用いた難削材の切削加工実験を行うことが出来なかった. これにより次年度使用額が生じたが,おおむね予定通りの助成金使用状況であり,大きな問題となる額ではないと考えている.
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次年度使用額の使用計画 |
TiB2+α-MoS2複合膜の高硬度化および高密着力化を目指した実験を行うために,スパッタターゲットを購入する予定である.
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備考 |
当研究室の内容を紹介するとともに,これまでの研究業績を上記ホームページにて公開している.
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