本研究は,Ti合金等の難削材切削加工の高効率化(高速化・ドライ化等)を実現するコーテッド工具の開発を目的とするものである.具体的には,TiB2系膜の硬度,密着性および高温潤滑性能(ガラス質固体B2O3の生成溶融)を高めるためにBを過剰に添加し,500℃以下での潤滑性向上を目的としてMoS2を複合化したコーティング材(TiB2+α-MoS2複合膜)を開発する.コーティング材の耐熱性,硬度の維持を目的として,潤滑性発現に必要なMoS2含有量を10%以下にするとともに,切削温度の上昇を抑え,Bの脱離を防止するために切削油を微小量供給する加工技術を開発する. これまでの研究遂行の過程で,TiB2-MoS2複合膜が200℃で0.01以下の超低摩擦特性を示すことを見出した.ただし,この超低摩擦特性発現のためには硬度の低いMoS2を20%以上含有することが必要であり,その結果TiB2-MoS2複合膜は10GPa程度と低硬度であった.そこで補助事業期間を延長して頂き,超低摩擦特性と高硬度を両立させるために,バイアス電圧等の成膜条件を最適化し,MoS2の層状構造を発達させ,MoS2の含有量の低減を試みた. TiB2+α-MoS2複合膜形成時の基板に0~-300Vのバイアス電圧を印加したが,XRDスペクトルにおいて結晶性のMoS2の存在を示すピークは観測されなかった.ただし,MoS2の含有量を15%とした場合においても,TiB2+α-MoS2複合膜は200℃において摩擦係数0.01を示した.これまでより少ないMoS2含有量にて超低摩擦特性を発現したことから,バイアス電圧印加によるTiB2+α-MoS2複合膜の形成は,超低摩擦特性と高硬度を両立させるために有効と考えられる.
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