研究実績の概要 |
レーザ誘起熱応力を利用した水平き裂誘導現象のメカニズム解明のため,き裂先端位置の観察実験,および熱応力解析や応力拡大係数の評価を行った.き裂先端位置の観察は,底面側から行った.また,き裂の観察はセナルモン法により行い,溝加工中のき裂先端位置については,熱源中心後方1mm付近に確認できた.しかし,スライシング加工における熱源直下付近でのき裂先端の有無については,レーザ熱による発光のため確認できなかった.ただし,熱源中心よりも7~8mm後方で,開口時の応力特異点らしき発光を確認できた. これらの現象について検証するために応力解析を行った.特にこれまで,線膨張係数については常温における定数で評価していたが,線膨張係数は,加熱速度に依存して大きく変わることが知られている.特に,レーザのように急加熱された場合の変化については知られていないため,一般的な線膨張係数の温度依存性を考慮したFEM解析を行い,温度依存性を考慮しない場合と比較検討した.その結果をもとに応力拡大係数を評価したところ,スライシング加工中のき裂先端位置は,熱源直下付近,熱源後方7~8mmの2つの位置に存在することが明らかになった.特に,温度依存性を考慮しない場合は,熱源後方7,8mmの位置には,破壊靭性値を超える条件は存在しなかったが,考慮することで,実験で観察された位置に,開口条件が見られたため,非常に良い整合性を得ることができた. 一方,溝加工については,線膨張係数を3倍程度大きく仮定しないと,実験との整合性を得ることができなかった.これは,スライシング加工と比べて,加工深さが浅く(50um程度),急激に加熱される条件であるため,線膨張係数もそれに伴い増加している領域であることが予測される.今後は,急加熱時の線膨張係数の温度依存性の測定実験を行い,これらの妥当性について検討する必要がある.
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