本研究は、研究実施計画で提案した方法、すなわち、FFM(摩擦力顕微鏡)とFC(フォースカーブ)を連動した手法(FFM-FCシステム)によって摩擦する金属表面間の凝着力を測定し、それをもとに摩擦・摩耗のトライボロジー基礎特性を解明したものである。前年度までに走査型プローブ顕微鏡(SPM)用チップレスカンチレバーに金属微粒子を付けたプローブを用いて新たに考案したFFM-FCシステム測定法によって金属摩擦面の凝着力を測定し、さらにピエゾを用いたピン・オン・フラット型微小摩擦摩耗試験と原子間力顕微鏡(AFM)によって得られた摩耗素子の観察によって、凝着摩耗の基本となる現象を解明し凝着摩耗の摩耗式を提案することができた。 最終年度の今年度は、鉄、ニッケル、金、銀、銅、モリブデン、亜鉛、チタン、コバルトの9種類の金属について、FFM-FCシステムを用いて塑性変形する摩擦面間の凝着力を測定した。その結果は、弾性変形のみを考慮したJKR-DMT理論とは異なること、さらに測定された金属摩擦面凝着力がC. Kittelの凝集エネルギーの計算値に直接関係することを明らかにした。凝着摩耗の基礎過程に関する研究では、FFM-FCシステムで測定された金属摩擦面凝着力と凝着摩耗の摩耗素子の発生数との直線的関係を調べた。凝着摩耗はもっとも基本となる数nm~数十nmの「摩耗素子」の発生によって決定されるが、本研究から真実接触部で発生する摩耗素子の個数が摩擦面凝着力に比例することを明らかにした。それと同時に、走査型電子顕微鏡(SEM)と原子間力顕微鏡を用いた摩擦面および摩擦表面下の観察によって、摩耗素子生成のメカニズム(摩耗の素過程)を解明した。以上の結果から、本研究で考案し実施した測定によって、凝着摩耗の基本となる摩耗式に摩擦面凝着力による影響を組み入れた新たな式を提案することができた。
|