研究課題/領域番号 |
26420078
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
小野 勇一 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50335501)
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研究分担者 |
森戸 茂一 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00301242)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 実験応力解析 / 応力・ひずみ計測 / めっき法 / 疲労 / 電子線後方散乱回折法 |
研究実績の概要 |
まず,スルファミン酸ニッケル浴を用いてステンレス板にニッケルめっきを施し,板からニッケルめっき層を剥離することで,厚さが15μm程度のニッケル薄膜を得た. 次に,作製したニッケル薄膜をチタン合金で作製した平滑試験片にフェノール系の接着剤を用いて接着し,175℃~250℃の雰囲気温度で繰返しねじり疲労試験を実施した.試験後,薄膜を光学顕微鏡で観察すると,表面に粒子の成長を確認することができた.種々の雰囲気温度と最大せん断応力において,繰返し数を徐々に増加させながら成長粒子の発生密度を画像処理ソフトを用いて計測した.成長粒子の増加を速度過程とみなし,成長粒子の発生密度,最大せん断応力,繰返し数および雰囲気温度の関係式(較正式)を導出した.得られた較正式を用いれば,成長粒子の発生密度に基づいて機械要素に作用した最大せん断応力を計測できる. さらに,曲げとねじりの組合せ負荷状態のもとで,薄膜全面に成長粒子がほぼ100%発生するまで繰返し負荷試験を実施した後,成長粒子の結晶方位を電子線後方散乱回折法により解析した.成長粒子の結晶学的な特徴は銅薄膜に発生する成長粒子の結晶学的特徴と類似していることが明らかとなった.すなわち,銅もニッケルも同じ面心立方晶であるので,そのすべり方向と最大せん断応力の作用方向が一致するような優先方位をもって粒子が成長することが明らかとなった.この特徴から,成長粒子が発生した薄膜を電子線後方散乱回折法で解析することで得られる極点図を用いれば,最大せん断応力の作用方向を決定できることが明らかとなった.したがって,弾性論に基づいて機械要素の疲労強度評価で重要となる主応力も測定できる見通しを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は3年の研究機関であるが,その初年度はニッケル薄膜について,機械要素の疲労損傷評価に重要な応力成分である最大せん断応力と主応力の測定可能性に絞って研究を行うことにしている. まず,最大せん断応力の測定については,ニッケル薄膜表面に成長粒子の発生が確認できたとともに,発生した成長粒子の密度に基づいて応力測定を行える較正式を導出することができた.また,初期電着面を用いれば,電解研磨とエッチング処理が不要になるということも明らかとなった.このような点を踏まえ,研究は順調に進展していると判断できる. 次に,主応力の測定に関しては,電子線後方散乱回折法を用いることで成長粒子の結晶学的な特徴を把握することができ,それを利用すれば,原理的に主応力の計測も可能であることが示せた.したがって,これも順調に進展していると判断できる. 以上の点から,ニッケル薄膜では,175℃~250℃までの雰囲気温度に対して,最大せん断応力と主応力の計測ができる見通しを得ることができた.したがって,初年度の研究課題の達成度としてはおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
2年目からは,ニッケルにタングステンなどを添加させたニッケル合金めっきを電着により作製する予定である.得られたニッケル合金薄膜に種々の加熱温度で熱処理を施して再結晶温度を調査する.すなわち,粒子の発生は再結晶温度と相関があり,再結晶温度が高い薄膜のほうがより高温環境下で応力の測定ができる.したがって,電子線後方散乱回折法を用いて加熱処理前後のニッケル合金薄膜表面の組織を解析し,結晶粒が粗大化する温度を決定する.また,示差熱分析により吸発熱反応がわかるので,これを用いた再結晶温度の推定も試みる.ニッケル薄膜と比較してニッケル合金薄膜のほうが再結晶温度が高くなれば,より高温環境下での応力測定が期待できる. また,このような高温環境下の場合,通常の接着剤では強度不足となるため,接着剤についても検討する.また,接着が困難な場合,機械要素へ直接めっきする方法も検討する. さらに,高温環境下で繰返し負荷試験が実施できるように加熱炉の準備も進める.
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