最終年度に実施した研究の成果は、炭素ベースターゲットと銀または銅タブレットによる同心円複合ターゲットを使用したRFマグネトロンスパッタ法により銀または銅含有量が10at.%以下の銀/ダイヤモンドライクカーボンナノコンポジット膜(以下、Ag-DLC)および銅/ダイヤモンドライクカーボンナノコンポジット膜(以下、Cu-DLC)の成膜法を確立し、それらの物性および摩擦・摩耗特性と金属添加量との関係を明らかにした。その結果、透過電子顕微鏡観察(TEM)により膜中の金属含有量が10at.%を超えるとマトリクス中に平均粒径4 nm程度の金属微結晶が均一に分散し、膜中金属含有量の増加に従って粒径と結晶性が向上することを確認した。摩擦試験の結果、金属含有量が10-30at.%の範囲でしゅう動相手材摩擦面に金属を主成分とするトライボフィルムが生成され難くなり、摩擦係数が増加することが明らかになった。膜中金属含有量が10at.%以下になると、しゅう動相手材摩擦面に生成するトライボフィルムは炭素を主成分とする組成に変化し、摩擦係数は減少することを確認した。 研究期間全体を通し、Ag-DLCおよびCu-DLCをCVDとPVDの複合プロセスで成膜した場合とPVDプロセスである高周波マグネトロンスパッタ法で成膜した場合を比較すると、膜のナノ構造と金属含有量の関係は定性的に同等であり、膜中金属含有量の増加に伴い膜の硬さは低下することが明らかになった。また、摩擦・摩耗特性に関しては、膜中金属含有量が40at.%を超える高濃度領域では成膜プロセスに依存せず同様の傾向を示し、本研究で新たに成膜した金属含有量が約40at.%以下の領域では金属含有量が20at.%前後で摩擦特性げ変化することが明らかになった。摩擦特性の変化は、しゅう動相手材摩擦面に生成するトライボフィルムの組成と密接に関係することが明らかになった。
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