研究課題/領域番号 |
26420095
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原田 周作 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80315168)
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研究分担者 |
山本 恭史 関西大学, 工学部, 准教授 (90330175)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微粒子分散系 |
研究実績の概要 |
液体中に不均一に分散した固体微粒子の重力沈降挙動に関する研究を行い,その動的な集団性について解明するとともに,沈降速度や流路中の分散挙動を能動的に制御することを目的とした研究を行った.濃度界面(粒子懸濁部と純粋液体との間に形成される見かけ上の界面)近傍における粒子運動について調べるために,沈降実験,線形安定性解析および数値計算を行った.数値計算は,連続体としての懸濁液の挙動を想定したfront-tracking法による流体解析,および懸濁粒子の離散的な運動を想定したpoint force modelに基づく粒子沈降解析の2種類を行った.これらの数値計算結果を実験結果および線形安定性解析にお結果と比較して,連続体としての界面不安定の支配波長および時間成長率,離散体としての粒子沈降速度,また懸濁部への浸透流がどの程度存在するのかを調べ,濃度界面の遮蔽性に関する定量的な考察を行った. これらの結果から,懸濁液の濃度界面は,集団性が十分大きい場合には外部からの流体の侵入を抑制し,濃度界面は混和界面と不混和界面の両方の性質を併せ持つこと,また集団性が小さい場合には個々の粒子としての沈降運動に漸近することなどが明らかとなった. さらに,懸濁粒子の沈降速度や分散挙動の能動的制御の試みとして,各種工学分野で重要となる複雑流路中における粒子の集団沈降実験を行った.フラクタル形状を有する3次元複雑流路を用いた実験を行った結果,懸濁粒子の集団性が顕著な場合は,複雑流路中で懸濁粒子は周囲流体と不混和にふるまい,流路中の液体との体積置換効果により沈降が大きく促進されることがわかった.さらにフラクタル流路中における粒子分散挙動のモデル化を行い,流路の空間スケールに依存しないフラクタル特性量のみの関数である粒子占有率の時間変化モデルを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標の1つ目であった「濃度界面不安定が成長する過程において懸濁粒子の集団性 (流体の遮蔽性) がどのように形成されるのかを解明する」については,実験と数値解析の比較によってほぼ解明された.また2つ目の目標である「集団性を粒子濃度や物性条件と結び付けることによって任意の懸濁条件における沈降速度を予測・制御する」および3つ目である「複雑流路において懸濁条件を操作することにより沈降速度と分散性を制御する」に関しては,集団性が顕著な場合について,フラクタル流路のような複雑流路中においても懸濁条件を変化させることによって沈降速度や分散挙動を制御可能であることを数学モデルを用いて示した. 当初の研究計画では,複雑流路を用いた沈降実験は平成27年度以降に行う予定であったが,濃度界面の微視的解釈に関する研究目標が概ね順調に遂行できたため,前倒しして研究を行った.全体として研究計画よりも進展が速く,上記3つの目標の内1つがほぼ達成され,残り2つも順調に目標に近づいており,概ね順調に研究が遂行されたと判断している.現在,研究目標の1つ目である「懸濁粒子の集団性が形成されるメカニズム」に関して,2種類の異なる懸濁液により形成される濃度界面の混和・不混和性を実験および数値計算により調べている.得られた研究成果は,今後速やかに国内外の学会で発表を行うとともに,国際的学術誌へ論文を投稿準備中である.また学術講演会や産学官連携イベントなどで積極的に公表を行い,研究成果の普及に努める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
目標の1つであった「濃度界面不安定が成長する過程において懸濁粒子の集団性 がどのように形成されるのかを解明する」について,当初の目標が概ね達成されたことから,2種類の異なる懸濁液により形成される濃度界面の混和・不混和性を調べ,異なる集団性を有する懸濁粒子の挙動についてさらに研究を進めていく予定である.本研究成果から,熱運動に由来しない流体力学的分散効果によるマイクロ粒子の混和挙動が明らかとなることにより,各種工学,自然科学の発展に寄与できると考えられる. 残りの2つの目標「集団性を粒子濃度や物性条件と結び付けることによる任意の懸濁条件における沈降速度の予測・制御」および「複雑流路中で懸濁条件を操作することによる沈降速度と分散性の制御」に関しては,フラクタル流路を用いた実験をさらに広範な条件において実施し,粒子分散挙動に関する数学モデルの妥当性について確認を行っていく. 達成された1つ目の目標に対しては,一部の結果に関しては既に投稿論文としてまとめており,現在行っている2種類の異なる懸濁液により形成される濃度界面に関する研究に関しても,達成度に応じて国内外の講演会や投稿論文の形で積極的に発信を行っていく.2つ目および3つ目の目標である「粒子集団性の操作による複雑流路中での粒子沈降速度と分散性の制御」に関しても,現在準備中の論文の他に,国内外の講演会での発表や産学イベントなどでの発信を随時行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していたデジタルマイクロスコープに関しては,作製した複雑流路系粒子沈降実験装置の全ての分岐部について撮影を可能とするために,複数のUSB方式のデジタルカメラで代替し,またそれらをPCによる制御ソフトを購入して画像撮影を行った.
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次年度使用額の使用計画 |
実験用粒子やシリコーンオイル,アクリル部材などの消耗品費は概ね計画通りに使用する予定である.また,平成26年度および平成27年度において研究に当初の予定以上の進展が見られたことから,今年度はこれまでに得られた成果の発表に要する費用の用途で研究費を使用する予定である.平成28年度に使用可能な経費を鑑みて,研究代表者および研究分担者の学会参加費および旅費として,海外1回,国内3回の成果発表の費用として使用する予定である.
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