研究課題/領域番号 |
26420096
|
研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
河合 秀樹 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20292071)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | Taylor渦 / 固液分離 / カオス / 混相流 / 微生物流動 / 超音波流速計測 |
研究実績の概要 |
バイオ工学や再生医工学で注目される血球細胞や未分化幹細胞などの動物細胞は、細胞壁を持たないため、撹拌培養時に生じる流体のせん断力によって損傷を受けやすい。Taylor渦(Taylor Vortex Flow: TVF)は、単純な装置で流れの安定且つ均一な混合の可能性を有することから、細胞の損傷率も低く抑えられると期待される。そこで我々は実験上安全な植物細胞の中から細胞壁を持たない特定の光合成植物微生物を選定し、TVFによる効果を調査している。目下TVF撹拌では細胞増殖に支障を来す損傷は確認されておらず、流体力学的な挙動と損傷率の関係をより深く解明することが重要である。 本年度は、TVFバイオリアクター内の細胞損傷率を計測する方法として、従来の可視光680nmの吸光波長に加え、紫外線吸光の可能性を新たに検討した。具体的には細胞を超音波によって強制破砕後,希釈定量化されたクロロフィル濃度と可視光あるいは紫外線吸光度の相関についてキャリブレーションを試みた。この結果、可視光波長680nmでの吸光スペクトルには明確なピークが観測されたが、紫外吸光ではピークが観察される場合とされない場合があった。この点について今後更に検討する必要があるが、紫外吸光でもピークの発生が出現したため、より少ない細胞損傷率でも損傷率が高感度で測定できる可能性が出てきた。 流体力学的なアプローチとして、直接数値解析によるTVFカオス乱流コードの開発に着手した(ただし単相流)。カオス流から乱流へ遷移する過程が解析できれば、より低Reynolds数での効率的な撹拌混合の実現に資する。今後周波数解析を実施し、その解像度を実験と比較して精度検証する。 超音波速度計速法の開発ではUVP法(超音波ドップラ流速計)によるカオス乱流計測法の高精度化とS/N比向上を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画により想定した現象が検証できた。ただし、紫外吸光のピークの有無については再現性の課題が残されている。
|
今後の研究の推進方策 |
TVF乱流解析コードと超音波ドップラ法による実験結果の整合性について検討する。特にカオス乱流における振動場の空間分布は,TVF混合の特異的なメカニズムの解明に重要な指針を与えるため、より綿密に計測実験する。 微生物の多孔質担体への固定化率と浮遊微生物の速度差の相関を調べる足掛かりとして、超音波ドップラ法による2相流の速度分布同時計測法の可能性について検討する。また固定化担体のとして2mm角を利用しているが,担体の大きさによる均一化率への影響についても調べる予定である。 インペラ撹拌法では孤立混合領域の存在も可視化するが、せん断場と細胞損傷の因果関係については別途測定法の確立についても試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画の中にあった微生物細胞の損傷率検証において、クロロフィル濃度が微小でも高い感度で紫外吸光におけるピーク発生が得られる等、大きな成果が出たものの、その再現性については未だ時間を要している。また超音波計測法において、廉価なパルサーレシーバーで従来のUVP程度の高精度が得られる条件を試行錯誤により見つけたことから、複数個のパルサーレシーバーを使用した粒子分散分布測定法の可能性が大きくなった。このため次年度への予算措置に組み込むことが合理的と判断した。
|
次年度使用額の使用計画 |
複数個のパルサーレシーバーによる粒子分散分布測定法の可能性を視野に入れて、超音波エコーの、より高感度解析の試行回数を増やし、S/N比の向上を目指す。
|