バイオ工学や再生医工学分野で注目される血球細胞や未分化細胞などの動物細胞は,細胞壁を持たないため,培養時の撹拌で生じる流体のせん断応力によって損傷を受けやすい.Taylor渦(Taylor Vortex Flow: TVX)は,単純な装置で安定で均一な混合を供する可能性があるため,細胞損傷を低く抑えられることが期待される.本実験では取り扱いが安全で且つ工学上も有用な光合成微生物に注目し,特に細胞壁を持たない種株を選定してTVFによる混合特性を調査した. 本年度は浮遊細胞の藻体破壊評価法,並びに固定化される細胞の均一化率を評価する方法についてそれぞれ探索し,特に藻体破壊評価については以前から開発中の紫外も含めた可視吸光度計による吸光度スペクトルの問題点に焦点を当てた.吸光度法では270nmの紫外波長域で特定のスペクトルを検出できたが,藻体破壊によって露出するクロロフィル以外の培養液濃度にも反応しているため,それらの分離法を確立する必要が生じた.数回の実験により培養液から得られるスペクトルは再現性が高く独特の形状を示すため,培養条件ごとのパターン化を図れば分離できると判断される.これより可視光スペクトルでは検出できなかった微量漏出クロロフィルでも,このスペクトル域を使えば捕捉できる可能性が見出された. また微生物固定化の不均一性の一因として,付着補助剤であるポリイミン剤の固定化担体への含浸斑の可能性を考え,ポリイミン剤と優位に反応する色素を見出して色素分布による評価を試みた.目視的には質量天秤では捉えられない微量な固着量も色差の違いにより分別できたが,計測的に優位な数量差となるまでのデーター化は未だ模索中である.
|