研究課題/領域番号 |
26420125
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
沖田 浩平 日本大学, 生産工学部, 准教授 (20401135)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | キャビテーション / 超音波 / マイクロバブル |
研究実績の概要 |
マイクロバブルを含む生体ファントムの周波数特性取得のため,二探触子透過法に準じた実験系の構築を行った.まず,生体ファントムにポリアクリルアミドゲルを採用してマイクロバブルを含まないゲルのみの周波数特性を取得し,実験系を模擬したゲル中の圧力波伝播に対する1次元計算を行うことによって,モデルパラメータであるゲルの粘性係数を同定した.次に,超音波造影剤であるSonazoidをマイクロバブルとして含むゲルを作成し,やわらかい弾性体中のシェル付マイクロバブルに対する周波数特性について調べた結果,周波数3~6MHzの範囲で周波数の増加に伴う減衰係数の増加がみられる等の周波数特性を得た.一方,数値計算における物理モデルの高度化としてrectified diffusionに対するモデルの導入を行った.rectified diffusionは体積振動する気泡が膨張時および収縮時に周囲の媒質に溶存しているガスが析出・溶解する現象である.本研究では,気泡周囲に溶存しているガス濃度の拡散方程式を時間発展させることで,気泡界面を通して生じる物質移動を考慮した.単一のマイクロバブルに対して一定時間後に超音波と同等の圧力振幅を加えた結果,気泡内ガスが周囲の媒質に溶解して安定化した後,圧力変動に伴う体積振動によって平均気泡径が大きくなり,非線形振動する気泡の成長における周波数や圧力振幅等の影響の検討ができるようになった.また,気泡崩壊後の気泡内ガスの溶解による消滅といった現象の再現が可能になった.これらは,集束超音波治療においてキャビテーションによる加熱効果の高効率化に大きな影響を与える気泡核分布の変化が考慮できるようになったという点で重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
やわらかい弾性体中のシェル付マイクロバブルに対する周波数特性の取得により定性的な傾向を得たが,定量的に評価するには十分なデータとは言えず,マイクロバブルに関するモデルパラメータの同定までに至っていない.これは,サンプルによる計測値の誤差が減衰係数の変化の大きさと同じオーダーの結果になっているためで,今後,誤差対策を施すことでマイクロバブルを含むゲルの周波数特性をより定量的に評価できれば,マイクロバブルに関するモデルパラメータの同定が可能になると考えられる.そこで,予定していたモデルパラメータの同定に代わって,平成27年度に予定していたマイクロバブルの崩壊消滅モデルの構築として,シェル崩壊後のマイクロバブル内ガスの周囲のゲルへの溶解に対するモデル化を先行して行った.また,薄膜熱電対を用いた温度計測については,マイクロバブルを含まないゲルについて温度分布の計測を行った.
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今後の研究の推進方策 |
前年度から継続してマイクロバブルを含む生体ファントムの周波数特性取得実験とパラメータの同定を継続して実施する.その際,マイクロバブルを含むゲルのサンプルによる誤差原因について検討してデータの信頼性向上に努める.また,マイクロバブルを援用したHIFUに対するin vitro実験において,薄膜熱電対による温度計測によって,定量的な温度の時間変化を得る.この温度計測実験と対応した計算から,多機能性マイクロバブルを含むHIFU治療の加熱効率について検討する.一方,マイクロバブルの崩壊消滅モデルの構築として,周波数特性取得実験において,超音波照射時間をパラメータとして得られた周波数特性の変化をもとに,超音波照射時間,圧力振幅およびシェルの物性等をパラメータとした確率論的なシェル崩壊モデルについて検討し,物理モデルの高度化を行う.また,前年度に購入した汎用超音波画像診断装置を用いて,超音波照射時間とマイクロバブルの空間的な分布の時間変化についても調べる.本研究より得られた成果を学会等で随時発表する.
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