本研究の目的は、地質・環境・エネルギー・製造分野の様々な問題で共通して見られる、マイクロスケールの空隙が不規則に連なる多孔質媒体の内部で気体・液体・固体等複数の相が相変化を伴って混在して流れる複雑な混相流動現象を、従来よりも高精度・高効率に予測するための、コンピュータによる流体力学(CFD)シミュレーション手法及びそのプログラムコードの開発である。 最終年度は、前年度に引き続き、フェーズフィールドモデル(PFM)と格子ボルツマン法(LBM)を採用して研究者が提案しているCFDシミュレーション手法の基本性能をより詳細に検証するため、基礎的な二相流現象へ本手法を適用し、以下の主要な結果を得た。 1.固体表面上の液滴の滑落のシミュレーションを実施して、表面の凹凸構造が液滴の動きを遅らせるピン止め効果が再現されることを確認し、実際の現象で見られる接触角ヒステリシス(液滴の接触角が前進側で平衡状態よりも大きくなり、後退側でより小さくなる)に微細な表面構造が関係している可能性を示した。 2.深さと幅が各々100マイクロメートル(1万分の1メートル)の正方形断面の流路3本が交差するFlow-focusing型液体混合デバイス内の水-油系液液二相流の数値シミュレーションを実施し、実験と同様に、毎分0.1ミリリットル(mL)で流入する油が上下各方向から毎分0.3mLで流入する水と合流後に下流へ押し切られて油滴が形成されることを確認した。 上記を含め研究期間全体で得られた結果により、本研究のCFDシミュレーション手法は従来手法よりも優れた適用性を有することが実証された。以上により、従来では困難だった、界面張力の効果が支配的で且つ固体表面の不均一な濡れ性や凹凸構造の影響が顕著に働くマイクロスケールの二相流現象の高精度・高効率な予測が、本手法によって今後実施されることが期待できる。
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