研究課題/領域番号 |
26420133
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
赤松 正人 山形大学, 理工学研究科, 教授 (40315320)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 形状記憶ゲル / 熱伝導率 / 熱浸透率 / 比熱容量 / 熱拡散率 |
研究実績の概要 |
形状記憶ゲルは90年代に開発され,医療やロボット分野への応用などが期待されている夢の新素材である.しかしながら,従来の形状記憶ゲルは白濁して不透明であり,割れやすく脆弱であった.近年,世界で初めてスイッチング温度を境に形状記憶機能を発現する透明なゲルが開発された.現在,この形状記憶ゲルの熱物性値は未知であり,実際に応用を考える上ではその熱物性値は必要不可欠なデータである.本研究では,試料の非定常温度応答を利用し,非破壊的に熱物性を測定することのできる点接触式温度プローブ(熱物性テスター)を用いて形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率を明らかにすることを目的とする.なお,これらの値が測定できれば,形状記憶ゲルの比熱容量と熱拡散率も算出することができる. 平成27年度は,熱物性テスターを用いた熱伝導率と熱浸透率の測定精度を初年度の±15%から±5%まで向上させ,さらに含水率が形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. まず初めに,様々な条件下(温度環境296.5 Kで一定)で熱伝導率と熱浸透率が既知のポリ塩化ビニル,アクリル樹脂,フッ素樹脂,ソーダガラス,および石英ガラスのそれらを測定した.その結果,これら物質の熱伝導率と熱浸透率を±5%以内で測定できる測定手法を確立した.これは,本熱物性テスターを用いれば同じ温度環境下における未知の物質の熱伝導率と熱浸透率を±5%以内で測定できることを示すものである. 本熱物性テスターの測定精度向上後,乾燥状態(含水率0%)における形状記憶ゲルを上記物質と同じ環境下で測定したところ,その熱伝導率と熱浸透率はアクリルのそれらとほぼ同様の値を持つことが明らかにされた.さらに,十分に水を含ませた形状記憶ゲル(重量基準含水率29%)を上記物質と同じ環境下で測定し,含水率が形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率に及ぼす影響も明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は,熱物性テスターを用いた熱伝導率と熱浸透率の測定精度を初年度の±15%から±5%まで向上させ,さらに含水率が形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. そして,平成27年度当初の目的通り,本熱物性テスターを用いれば未知の物質の熱伝導率と熱浸透率を±5%以内で測定できる測定手法を確立した.さらに,含水率が形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率に及ぼす影響も明らかにした. 熱物性テスターは,比較法で未知の物質の熱物性を測定する.これまで,293 Kと300 Kにおいて熱物性が既知の物質を用いて,これら温度下における形状記憶ゲルの熱物性を明らかにしてきた.現在,形状記憶ゲルの応用範囲は,室温におけるロボットハンド,体温における眼内レンズや血管等などである.室温付近における形状記憶ゲルの熱物性は,平成27年度における測定でほぼ明らかにされたが,体温付近における形状記憶ゲルの熱物性も明らかにすることが望まれている.現在,体温付近において熱物性が既知の物質を探すとともに,その測定法を模索中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本熱物性テスターを用いた熱物性測定の精度をさらに向上させるとともに,室温付近における形状記憶ゲルの熱物性特性をさらに詳細に解明する. また,体温付近における形状記憶ゲルの熱物性特性も明らかにすることを目的とする. 測定精度の向上と室温付近における熱物性特性の解明は,平成27年度確立した方策をさらに進展させ目的を達成する計画である.体温付近における熱物性特性の解明においては,比較対象となる熱物性が既知の物質をどう選定するのか検討中である. さらに,本測定で明らかになりつつある形状記憶ゲルの熱物性特性は,今年度2件発表した共著者の一人に提供し,形状記憶ゲルを用いたロボットハンドの共同開発に発展させるべく,検討が進められている. なお,平成28年度は得られた測定結果をまとめ,日本熱物性シンポジウムおよび第4回国際伝熱フォーラム (IFHT2016)で発表予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末,少額の物品を購入して全額を使い切る予定であったが,残額149円は調整が不可能であった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,残額149円とともに,年度末まで当初の計画通りに全額を使い切る予定である.
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