連携研究者である古川らの研究グループは形状記憶ゲルを開発し,これを利用した骨折用のバンテージ,模型眼,そして入力装置用のスマートボタンなどの開発に精力的に取り組んでいる.この形状記憶ゲルの内部には,結晶成分として約60℃で溶解するステアリルアクリレートが含まれている.このため,常温下ではゲルは固いが,ゲルを60℃以上にするとステアリルアクリレート部分が溶解し,ゲルは柔らかくなり変形する.このとき,ゲルを60℃以下にすると変形後の形状を維持したまま固化し,再びゲルを60℃以上にすると元の形状に戻る熱的特性を持つ. しかしながら,形状記憶ゲルはこのような特異な熱的特性を有するにも拘らず,その熱物性特性は明らかにされていない.それ故,形状記憶ゲル製ロボットハンドなどの応用展開を考える上では,形状記憶ゲルの熱物性を明らかにすることが必要不可欠である.そこで本研究では,点接触式温度プローブを用いて,室温における形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率を測定した.具体的には,含水率17 %と40 %における形状記憶ゲルのそれらを測定し,含水率が透明形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率に及ぼす影響を検討した. この結果,含水率17 %の形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率はフッ素樹脂のそれらとほぼ同様の値を持つ.さらに,含水率40 %の形状記憶ゲルの熱伝導率と熱浸透率は含水率17 %の形状記憶ゲルのそれらより,それぞれ1.48倍および1.09倍大きい値を示す. 測定結果をもとに,局所加熱された形状記憶ゲルにおける解析モデルを用いて,非定常三次元熱伝導方程式を数値解析的に解いた.これらの数値シミュレーション結果は,形状記憶ゲル製ロボットハンド開発のために共同研究者に提供し,共同研究および開発が進行中である.
|